2008シックスネイションズ フランス対アイルランド 26-21梅本洋一
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ヴァンサン・クレールの快走で26-6になった後半、マルク・リエヴルモンは、フロントローをふたり代える。第1戦でスコットランドFWに押し込まれた左プロップのジュリアン・ブリュニョーとフッカーのセルヴァの投入だ。それまでは1番がフォール、2番が百戦錬磨のスザルゼフスキ。直後にアイルランド・ボールのスクラム。案の定押し込まれるフランス。アイルランドの逆襲はここから始まった。ほぼ勝敗は決まったからもしれないが、このチームの一番の弱点を露呈させる交代。対スコットランド戦で、スクラムなどの短所を補強するよりも、ライン攻撃という長所を伸ばした方がいいとぼくは書いたが、第1列を代えた途端に、ゲームはアイルランドに傾いた。ラグビーにおけるスクラムの重要性が浮き彫りにされる。
何とか逃げ切ったゲーム後、ブリュニョーは、「俺のせいで負けなくて良かった。もしこのゲームを落とせば俺が戦犯だから」と語る。リエヴルモンは、「気にしなくて良い。勝てたのだから。次に頑張れば」と気を遣うが、リエヴルモン自身が育て上げたダックスの第1列は、こんなに弱いのだろうか。スコットランド戦、アイルランド戦を見ると、キレキレのクレールをはじめ、このチームはボールを順当に確保できればどんなチームからも数トライはかたいと思えるから、もし今年のシックスネイションズに目標を定めているのなら、専門職のスクラム第1列は老練な選手に任せて──マルコネ、プクスの復帰等──、バックスを走らせることに専念すればいいとも思える。だが、リエヴルモンはすごく欲張りだ。前戦で先発を外されて発憤したスクレラが、このゲームでは素晴らしい出来だったが、そのスクレラを残り5分で代えて、トラン=デュックを投入している。冒険あるいは無謀、その辺のところはまだ不明だが、リエヴルモンの選手起用は、とりあえず独創的であることだけは明らかだ。これで、ブリュニョーに見通しが立つようになり、トラン=デュックが独り立ちすれば、このチームに太い芯が通ることも確かだ。勝ちながらチームを変えていく。リエヴルモンは難しい実験を始めた。