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March 25, 2008

『FAN』group_inou
田中竜輔

[ cinema , music ]

「うかうかしてらんない おちおち寝てらんない」、group_inouの1stフルアルバムのテーマは幾度も繰り返されるこのフレーズだ。とりあえず焦ってみるということ、彼らの行動規範がそのまま音楽になっている。彼らのライヴを何度目かに目にしたとき、音楽は馴れ合いのための「方法」なんかじゃなく、ときには敵を生み出すような「行動」であるべきなんだと、あまり音楽そのものとは関係ないことを考えた覚えがあったが、本作を聴いてもやっぱり同じことを考えた。
 group_inouがやっているのは音楽の生々しさをそのままに提示すること、それだけだと言ったら怒られてしまうだろうか。理由付けとしての感情やら情念は全然聴こえてこない。それよりもずっと物質的な意味での生々しさ(たとえば一音一音の軽さや重さ、あるいは言葉とリズムの軽さや重さ)を、きちんと、そしてあっさりと提示するだけのものとしての音楽、それが『FAN』というアルバムには収められている。どの曲も、imaiのトラック(今作のリズムトラックはかなりバンドっぽい質感が強くなっていて、元々ドラマーだったという彼のスタイルがより明瞭になっていると感じた)とcpの声だけで作られたものとして、それ以上でも以下でもないのだと堂々と宣言しているようで、そのことこそが何よりサイコーだと感じた。彼らの音楽が個性的なのか、異端なのか、あるいは「異能」なのかは私が判断することではないが、少なくとも彼らはそういった聴き手のカテゴライズの前に屈することはあるまい。彼らはポップだ。それは彼らの音楽が聴きやすいとか、楽しいとか、そういう意味ではなく、ただただ、まっすぐな姿勢で取り組まれたものであるということだ。
 ともかく、ボーっと聴いているとあっと言う間にアルバムは終わってしまう(収録時間は10曲で30数分、潔し!)のだが、歌詞カードとにらめっこしながら、ドリンク片手にソファーで寝そべって聴く、なんて優雅な態度はこのアルバムには相応しくない気がする。たとえば満員電車の中で聴くのがいいんじゃないだろうか。もちろんMP3プレーヤーなんかで聴くのは邪道だ。狭い車内の中、周囲の人々の息遣いや不快な圧迫を実感しながらも、ゴツいCDプレーヤーでちゃんと円盤を回転させるという行為を経由させることが、この生々しくまっすぐなアルバムを聴くことには相応しい気がする。