2007-08チャンピオンズリーグ準々決勝 1st Leg アーセナル対リヴァプール 1-1梅本洋一
[ architecture , sports ]
疲労について考えている。同日に行われた別の準々決勝シャルケ対バルセロナでは、それぞれのチームが走った距離は、約100キロずつ。つまり選手ひとりが10キロずつ走った計算になる。それに対してこのゲームではそのおよそ1,5倍、つまりひとり15キロ走っている。ショートパス、ミドルレンジのパスが組み立ての中心になるアーセナルのゲームでは、ひとりの選手が走る距離はいつもこの程度だ。アーセナルの得点シーンが後半も押し詰まって時間帯に多いのは相手が疲れてくるからだ、とかつてヴェンゲルが語ったことがある。こういうことだ。華麗に見えるアーセナルのパスフットボールの背景は、こうした豊富な運動量がある。アーセナルの選手は走っている。走り続けている。プレミアのトップチームであり、チャンピオンズリーグも勝ち残って、ゲーム数は非常に多い。しかも走っている。さらに前戦の対ボルトン戦は、雨の中で前半早々ディアビがレッドカードで退場し、その上、前半の2点のビハインドを後半で3点取り返して勝った。走った量はただものではない。
このゲームでも確かにアーセナルは走っているが、速く走ったわけではないことは、ゲームを見た目が伝えてくれる。疲れているのだ。プレミアリーグでは、トップを快走したが、その後、引き分けばかりで勝てなくなり、チェルシーに敗れ、そしてやっとボルトンに逆転勝ちした。そして、この1st Leg、プレミアリーグの通常のゲーム、2nd Legと対リヴァプール3連戦、しかもどのゲームも落とせない。疲労に緊張感が重なる。普通ならヴァケーションが欲しくなる時期だ。いつも緊張し、常に集中していると誰でも疲労してくるし、しかも、アーセナルは走っている。負傷のサニャの代わりに右サイドバックに入ったトゥレがジェラードに股間を抜かれてラストパスを献上したのも、引いて守るリヴァプールのディフェンスラインを最後まできっちり割ることができなかったのも、疲労のせいだ。ターンオーヴァー制を敷きたくてもアーセナルの若い選手たちには替えがない。美学を捨ててゲームを殺して1-0で勝つセリエの狡猾さは、残念ながらこのチームにはないし、それにヴェンゲルはあくまで自らのエステティックを貫きたいはずだ。アーセナル・スタジアムのリーグ戦でもリヴァプールに負ければプレミアシップの芽はなくなるし、2nd Legはアンフィールドだ。ぼくが選手なら逃げ出したくなる。綺麗な女性と海岸で過ごし、美味しい料理を食べたくなる。そんな時間帯の後には引けない戦いを正念場と呼ぶのだろう。