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April 10, 2008

『ポストマン』今井和久
結城秀勇

[ cinema , sports ]

 長嶋一茂はちょっとシルベスター・スタローンに似てるかも、というただそれだけの理由で見に行った。
 始まってすぐに「バタンコ」と呼ばれる自転車にまたがる長嶋一茂の姿は、あの発達した上半身の筋肉のせいで既に異様なのだが、しかしなにかそれだけにとどまらない違和感を感じて見ていたところ、線路脇の道路を鈍行列車と併走するシーンではたと気付いた。
「自転車がすげえ速い!」
 ちなみにもうこの一言で、この映画への感想はほとんど言い尽くしてしまった。

 時には集配に間に合わなかった国際郵便を集配トラックに届けるため、ある時は怪我をした娘のもとへ急ぐため、そして手紙を可能な限り早く届けることの正当性を肯定するために、長嶋一茂は「バタンコ」に乗る。「手紙は必ず宛先に届かなければいけない」、「スタートしたらゴールまで走り続けなければならない」と「Show must go on」の精神が繰り返し変奏されるこの映画では、疾走することで自立する車輪である自転車こそが最速の乗り物である。
 序盤こそ、娘や息子、友人の竹中直人らとの噛み合わない演技を見せる長嶋一茂だが、中盤以降は月並みな挨拶やほとんど言葉として機能しないような叫びしか発していなかったんじゃないか。もう、次に自転車に乗るシーンはいつくるのかと、ただそれだけに気を取られていた。
 結局のところ、この映画で私が全面的に肯定できる点というのは、単に「自転車が本当に速い」ということしかないのだが、ただそれだけで不覚にもぼろぼろ泣いてしまった。

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