北京オリンピック・サッカー男子 アメリカ対日本 1-0梅本洋一
[ cinema , sports ]
天津はすごく暑そうだ。ゲーム開始当初、気温は35度。画面が引いたときバックスタンドがぼやけて見える。湿気も多いのだろう。公害のせいもあるか。解説の山本昌邦は、アテネでの自らの体験を「オリンピックというのは、ユーロとはちがうんです。ピッチは綺麗ではないし、気温だって高い。綺麗なサッカーをして勝とうとしてもダメなんです」と語る。メキシコ・オリンピックの銅メダルは5バックで5-2-3という布陣だった。4バックの後ろにスウィーパー(鎌田)を置いていた。「マイアミの奇跡」と言われた対ブラジル戦勝利も、専守防衛で伊藤のシュートが偶然入ったものだった。唯一の勝ちに行ったシドニーでは、PK戦までいき、中田のPK失敗でアメリカに敗れた。
今回のU-23は、オーヴァーエイジを使っていない。それでもアジア予選でこのチームがだんだん強くなってきているように見えた。反町は指導者の中ではもっとも理論家の一人だと思うが、ここまで選手をとっかえひっかえして、ベストのイレヴンを選べていない。このゲームは、センターバックに森重と水本、両サイドに内田と長友、2ボランチに梶山と本田(拓)、ミッドフィールドに谷口、本田(圭)、香川、そしてワンチップに森本という布陣。決して悪くないだろう。事実、前半はショートレンジのパスを繋ぎながら、右の内田がチャンスメイクする場面が多かった。森重と谷口が決定期を外したが、このリズムを持続すればたぶん勝つだろうと予想できる展開。だが、後半開始早々に長友のサイドを破られてバックラインが下がったところをミドルで決められた。先制されたが、この失点で目が覚めるのではないかと思えた。
だが、この1点ですっかり動きが落ちたのはジャパンの方。バックラインの押し上げがまったくなくなり、どの選手も自分のポジションから動こうとしないのだ。業を煮やした反町は、動きの質が悪かった梶山を李に代えて2トップ、さらに疲労の見えた森本を豊田に代えた。だがゲームは停滞するばかりだ。アメリカが暑さと残り時間からゲームを「殺し」にくるのは分かっているだろう。反町は正直だ。点が欲しい。だからFWだ。だが、このゲームを見る限り、その選択は間違っていたようだ。森本にはほとんど有効なボールが供給されていない。惜しいシュートは森重と谷口。両方ともパスは内田から来ている。攻撃の選択肢が少ない。有効はアタックは内田からしか始まっていない。問題は中盤の強化にあるはずだ。梶山を下げると中盤のパサーが誰もいなくなった。動きがわるくても梶山は代えられないのだ。左サイドの長友と本田(圭)からの崩しも少ない。2トップにするなら香川を下げるしかないだろう。
だが、もっと問題なのはハートだ。タイムアップが迫っても、バックラインの押し上げがない。ドリブルで勝負する奴がいない。豊田は、ペナルティエリアの中でPKをもらおうとしていた。この時間帯なら、明らかなPKの他、倒れてはいけない。ピッチがわるい。暑い。湿気が多い。そんな状況の中で勝ちを拾うためには、ハートしかない。このチームは、かなりうまい。だが、仕切る奴とハートのある奴がいない。