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October 1, 2008

『ソール・バスの世界』
宮一紀

[ DVD ]

 映画作品のタイトルバックにデザインの手法を取り入れた最初期の人物としてその名を映画史に燦然と輝かせるソール・バス(1920-96)。代表作を挙げればきりがない。オットー・プレミンジャー、ビリー・ワイルダー、ロバート・アルドリッチ、ウィリアム・ワイラー、アルフレッド・ヒッチコック、そしてもっとも最近ではマーティン・スコセッシやリドリー・スコットが全幅の信頼を寄せていたタイトルバック・デザイナーとして知られているが、彼自身映像を監督していたことはあまり知られていない。日本で見られるものはたいへん限られており、ソール・バス唯一の長編作品『フェイズⅣ / 戦慄!昆虫パニック』(1974)だけがかろうじてVHSになっている(だが大手レンタルショップの在庫情報からは完全に消え去っている。レンタル落ちで叩き売りの憂き目に遭ったのだろうか)。そんな中で彼の制作した『ソール・バスの映画タイトル集』(1977)と『なぜ人間は創造するのか』(1968)の2作品が封入されたDVDパッケージが発売された。率直に喜ばしいことである。
 『ソール・バスの映画タイトル集』はソール・バスが手掛けたいくつかのタイトルバックをインタヴュー形式の自身による解説とともに収録した作品で、収録されている作品のほとんどはすでに日本でもソフト化されているものだが、もちろんデザイナー自身の解説とともに見られる点では貴重な資料と言えるだろう。ここでは初期の頃によく見られた映画作品へのミニマムなグラフィックによるアプローチ(『黄金の腕』)から、実写映像を伴った「より映画の本質を追究した」アプローチ(『ウエスト・サイド物語』)、そしてほとんど映画と一体化し、もはや映画作品の序章や前段と位置づけられるようなタイトルバック(『大いなる西部』)を経て、再び抽象的な認識論を展開することになるタイトルバック(『荒野を歩け』)へと至るデザイン手法のプロセスが語られる。
 一方、『なぜ人間は創造するのか』はソール・バス自身が監督した映像作品である。こちらは「体系」「模索」「過程」「判断」「寓話」「余談」「探求」「なぜ人間は創造するのか」という示唆に富んだ興味深い8話構成となっており、冒頭のアニメーションでは摩天楼を想起させる石造りの建築物を徐々に上昇しながら、その中で歴史上の人物たち、名も無き人間たちが右往左往している様がコミカルに描かれる。次第に実写映像を伴って、先に挙げた「創造」の根源的なテーマについて様々な側面から考察してゆくこの作品は、1968年度のアカデミー賞最優秀短編ドキュメンタリー賞を受賞している。
 今日でも数は少ないが優れたデザインのタイトルバックは生み出されている。ペドロ・アルモドヴァル監督作品のタイトルバックを手掛けるフアン・ガッティ、デヴィッド・フィンチャー監督作品や「スパイダーマン」シリーズを手掛けるカイル・クーパー、あるいはスパイク・リー監督と初期の頃からタッグを組んでいるランディ・ボールスマイヤーといった著名なデザイナーたち。彼らのほとんどが明らかにソール・バスの薫陶を受けているし、彼らの仕事のほとんどはソール・バスの仕事からまだそう遠くまで到達していない。