大学ラグビー対抗戦 帝京対早稲田 18-7梅本洋一
[ book , sports ]
この日のゲームは、帝京の完勝だ。ブレイクダウンで何度もターンオーヴァーし、スクラムでも早稲田をめくり上げた。解説の藤島大は、往年の早明戦のようだ、と言っていたが、今の早稲田の選手には往年の早明戦の経験値は皆無だ。選手が毎年入れ替わり、ひとりの選手がチームに在籍するのも留年がなければ4年を越えることがない大学ラグビーの困難さは、往年の早明戦の体験の有無ばかりではないだろう。87年12月の「雪の早明戦」では、このゲームのスクラムよりもずっと劣勢な早稲田のスクラムが明治のアタックを耐えきったこともあったし、自陣のゴールラインを背にしてねばり強く守りきる早稲田のイメージはもう過去のものになった。
現役の選手たちのほとんどは普通に戦って普通に勝った経験しかなく、劣勢をはねのけて勝利をたぐり寄せたことがないのだから、いつもなら、絶対的に自信を持っているスクラムやブレイクダウンがやられれば、もうギヴアップ状態になってしまうようだ。意図されない無駄なアタックばかりが空回りし、いたずらに時間を経過させてしまった。だが、彼らは、夏合宿で勝利を収めたものの一度帝京とは当たってはいるのだから、彼らのプレッシャーが相当なものであることを体が覚えているのではないか。この日の早稲田を見る限り、このチームの過信ばかりが透けて見えた。
一番大きな問題は前半のエリアマネジメントだ。強い追い風を受けても、早稲田はロングキックを封印し、カウンターを仕掛け続けた。大きな帝京FWを何度も背走させることで、体力を奪い、後半勝負という目算はなかったようだ。たとえ中竹から仕掛けていけと指示されていたとしても、この日の帝京を見れば、真っ向勝負ではなく、ゲイムメイクで勝利をたぐり寄せる以外、勝機はないことは分かっていただろう。選手の誰もが、そんな中で、取れもしない横綱相撲をとろうとして無理なアタックを仕掛けてはターンオーヴァーされてしまう。徹底してキッキングゲームを仕掛けるべきだった。余りにもナイーヴだ。
またスクラムが劣勢ならダイレクトフッキングをすべきなのだが、おそらく、それまで「スクラムでは一番」の彼らがダイレクトフッキングをした経験などないのだろう。低く耐えるスクラムも経験がないのだろう。
つまり、このチームは、応用問題がまったく解けない、というか、応用問題を解いた経験がない。推薦制度によって高校時代の優秀選手が続々と入学し、それまでは圧倒的な差があったFWでも互角以上に勝負が出来る体験しかないと、もっと大きく強いFWに当たればなすすべがない。早稲田も帝京のようにニュージーランドから優秀な留学生を呼ぶといった「お手軽」な戦略が考えられるだろう。だが、かつての早稲田──大西鐵之祐やキモケンのころ──を知る人なら、もっと別のやり方があって、そのやり方が忘れられていることなど全員が知っている。指導者のノウハウもまた選手のスキルと同様に受け継がれていないようだ。このことは、現在の早稲田の問題であるばかりか、ジャパン全体の問題かも知れない。