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November 25, 2008

マンチェスター・シティ対アーセナル 3-0
梅本洋一

[ cinema , sports ]

 先週のアストン・ヴィラ戦に続いてアーセナル完敗のゲーム。マンU戦に、アストン・ヴィラに敗れ、このチームの不安定さが気になっていたが、このゲームを見ると、アーセナルの症状の重さが伺える。
 アーセナルが、ヨーロッパでもっともスタイルを持ったチームであることは論を待たない。ショートレンジからミドルレンジのパス交換と両サイドのスピード感溢れる上がりを中心に、スペースをついてくるアタックは、チームのメンバーが変わろうと不変だ。相手によって戦術を変えるのではなく、常にポゼッションを心がけ、ワンタッチからトゥータッチのパスを連続してスペースを創造していくフットボールは本当に魅力的だ。それに、オイルマネーにものを言わせてあちこちから「高い選手」を買い漁る補強とも無縁で、若く有望な選手たちを集めて、このチーム内で熟成していく方法にも好感が持てる。
 だが、この2ゲーム、そうしたアーセナルの歯車が完全に狂っている。大きな原因は明瞭だ。インターナショナル・マッチデイの翌週のこのゲームという状況はその原因のひとつだ。肩を脱臼して手術したウォルコット、アデバイヨール、トゥレ、サニャといったレギュラーが怪我で戦線離脱。セスクがイエロー累積で出場停止、さらに治療やリハビリが続くエドゥアルドとロシツキ、さらにハムストリングを痛めたエブエ。これではユースチームと同じにならざるを得ない。さらに大きなファクターは、アストン・ヴィラ戦でのモティヴェーションの低下を怒ったギャラスが、チームメイトから反撥を食って、マンチェスター遠征には帯同していない。
 ギャラスがつけていたキャプテンマークはGKのアルムニアが受け継ぎ、バックラインには、ジュルー、シルヴェストルの両センター、ホイト、クリッシの両サイド、中盤にはセントラルにデニウソンとソング、両サイドにナスリとディアビ、2トップにベントナーとファン・ペルシ。この面子では格から言っても、ロビーニョ擁するマンCに引けを取る。ゲーム開始がされると、ひたすら負担がかかるデニウソンが相手の標的になり、パスワークは完全に消されてしまった。やることなすことが裏目に出るデニウソン。彼の落胆ぶりはモニターからも十分に伝わった。前半はスコアレスで持ちこたえるかと思われたロスタイムにゴールを割られ、後半も立て直すことはできない。交代選手にしてもヴェラやラムジーという10代の選手ばかりでは局面を変えることはできない。デニウソンを起点にするパスは寸断され、頼みのナスリに来たボールが渡る回数が減り、ディアビも空しくドリブルを仕掛けては、マンCのバックラインの餌食になっていく。最後まで悪循環を断ち切れず、PKまで与えてタイムアップ。
 ヴェンゲルは言う。「強いチームは、こうした浮き沈みを耐えて本当に強くなるものだ。それに前半ロスタイムに失点しなければ、このゲームだってどうなっていたか分からない、この敗戦を未来に繋がる糧にしたい」。言うことは一々ごもっとも。だが、怪我人は数日で戻れない者も多い。ロシツキはドイツで手術したという。「ギャラスについては何も語らない」とヴェンゲルは言うが、若い選手ばかりのアーセナルにあって、アルムニアを除いて唯一の30代の選手の離脱は、セスクの出場停止と並んで大きな低迷の原因だ。
 かつて、ベルカンプの隣でアンリが開眼し、ヴィーラの傍らでセスクが開眼し、アシュリー・コールの姿を見て、クリッシが育ち……というように、若いこのチームにあっても、ヴェテランの存在は不可欠だ。もちろん、だれよりもそのことを知っているのはヴェンゲルその人だろう。ミッドウィークのディナモキエフ戦は、このままアーセナルが凋落していくか、それとも、今がどん底なのかを見る重要な一戦だろう。