マイクロソフトカップ決勝 三洋対東芝 6-17梅本洋一
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トニー・ブラウンの復帰のニュースはゲームメイクという点において三洋には朗報だったはずだ。それに対して東芝はロマアヌの大麻疑惑というバッドニュース。東芝には外国人選手に関するバッドニュースが連続する。
秩父宮は、おそらく今シーズン一番の入りだろう。バックスタンドはほとんど埋まっている。強風。配られたメンバー表が風に舞う。たぶん三洋がリヴェンジするのではないか、というぼくの予想。ブラウン、入江のふたりのキッカーが、強風の中、東芝のアタックをいなしつつ、着実に敵陣というタイトなゲームをするのではないかと思ったからだ。
だが、予想は見事に外れる。東芝は度重なるバッドニュースに結束し、特にキャプテンの廣瀬はキレキレ。今日のできならジャパンのセンターを任せたい。そして、三洋はいつもと同じゲーム運び、そしてブラウン、FBの田井中のフィットネスが戻っていない。人数をかけてラックを支配し、ポゼッションしながら責める三洋とピッチ広くディフェンス網を張る三洋。前半は、東芝ヒルのエリアマネジメントで敵陣で戦う東芝、耐える三洋という構図。吉田大と廣瀬の2トライに対して、入江の2PG。12-6で東芝。この強風は15点ぐらいのハンディだと思った。三洋としては、後半にエリアマネジメントをしてカウンターという作戦だろうと思った。
だが、誤算はブラウンが前半で退いたこと。彼を見ていると、全盛時の50%も戻っていないばかりか、強風の風下ではブラウンのキックは活きない。田井中のエラーが多く、東芝の術中にはまったようだ。そして後半。ブラウンは退いたが、SOに上がった入江を中心にキックで組み立てるだろうと誰もが思った。しかし、おそらく三洋の飯嶋監督も考えたそうした展開にならない。理由は東芝の接点への徹底した拘りだ。ワイドではなく、ニア、モールラックサイドを次々に突いて、ほぼ前半と同じゲームメイクに徹する。三洋は前半こそしばしばターンオーヴァーからアタックできたが、後半になると、ラックに人数をかける東芝の前にいたずらに時間を浪費するばかり。
三洋もゲームプランを変えられない。元来このチームはブレイクダウンにそれほど拘らず、相手に出させてディフェンスというスタイルなのだが、接近戦の東芝に対するとなかなかボールを獲得することができない。だから、入江のキックを中心にゲームメイクすることもできない。人数をかけてターンオーヴァーという発想もないようだ。ワイドに開いた三洋のディフェンスラインの間隙を廣瀬に走られる。バッドニュースに再び結束した東芝は、もっとも単純なプレーに徹して最後には、もうワントライを奪う。ブラウンを前半に使い切り、ゲームプランを変えられなかった三洋は、自信過剰なのか初心なのか?キックをのぞいて、ここが強いという決定的な長所をもたないのが長所の三洋。逆に言えば、どこからでもアタックできる懐の深さがあるとも言えるけれども、ゲームの趨勢が見えてきた時間帯でも、東芝に真っ向勝負を挑まなかった三洋の「自分たちのラグビー」そのものが敗因だろう。
もちろん東芝は賞賛に値する。だが、このラグビーでは、FWが三洋よりも強いところに当たれば勝てないのも事実。東芝の、おそらくはこれがラストゲーム(ロマアヌのB検体が陽性なら日本選手権辞退)という気迫が三洋の緩やかな自信を打ち砕いたゲーム。ラグビーの原点回帰とも言えるが、前の晩に見たアイルランド対フランスは、もっとスペクタキュレールなものだった。満員のファンは必ずしも東芝の心情を共有しないのではないか。少なくともぼくにはかなり欲求不満が募った。