『レールズ&タイズ』アリソン・イーストウッド黒岩幹子
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年末年始に昨年発売された日本劇場未公開作のDVDを意図的に立て続けに見たので、しばらく未公開作はチェックしないでいいだろうと思っていたところに、このDVDを見つけてしまった。クリント・イーストウッドの娘であり、『真夜中のサバナ』ではヒロインを演じていたアリソンが映画を撮るらしいという噂は以前聞いていたが、すっかり失念してしまっていて、TSUTAYAの店頭で発見したときには不意を突かれた。
製作はワーナー、主演がケヴィン・ベーコンとマーシャ・ゲイ・ハーデン、音楽は兄のカイル。と聞くだけで、親父さんの影響なり威光なりを感じてしまうのはよろしくないことかもしれない。親父さん自身やマルパソ・プロダクションの名前はどこにもクレジットされていないし、たとえばソフィア・コッポラが父親の製作のもと映画を作るのとは少し事情も違うのだろうと思う。ただ、良い意味であの父親の娘であるからこそ得られたものであろう点はあって、そのひとつがトム・スターンが撮影監督をしているということだろう。
この作品でトム・スターンは、父イーストウッドの映画で見せるのとは色調も動きも違う映像を見せながら、やはりいい仕事をしている。暗い鉄道士・鉄道オタクのケヴィン・ベーコンの寡黙な顔や(トム・スタークという役名が『オール・ザ・キングスメン』のウィリー・スタークの息子と同じなのは名前なのは偶然か?)、末期ガンに侵された妻を演じるマーシャ・ゲイ・ハーデンのバストショットなど、そういった役者をじっと捉える何気ないショットのひとつひとつが適度な強度を持っている。
トム・スターンが撮影を担当するようになって以降、特に『ミスティック・リバー』~『チェンジリング』(『グラン・トリノ』は未見)の父イーストウッドの映画は、当然といえば当然のことなのかもしれないが、“クリント・イーストウッドの映画”であるのと同等に“トム・スターンの映画”だったと思う。つまり近年のイーストウッドの映画にとってトム・スターンは代替不可能な存在としてあるということ。それはたとえば『ペイルライダー』の撮影がブルース・サーティースじゃなかったら……といった仮定がなしえないのと同じことで、イーストウッドと組むということは同時に彼の作品において代替不可能な画を撮るということを意味するのかもしれない。
だから、アリソン・イーストウッドは才能あるスタッフ(編集や美術も親父さんのスタッフ)や役者とともに映画を作ることを可能にしているが、その一方でこの作品が“クリント・イーストウッドの映画”(ではないこと)を前提に見られてしまうという定めを受け入れなければならないだろう。残念ながらこの映画を見る限りでは、そういう視線を跳ね返すだけの力、この作品は彼女にしか作れないと思わせるような何かは、まだ持ち得ていないように思った。
ケヴィン・ベーコン演じる主人公と彼が一緒に暮らすことになる少年が、ふたりとも自分の父親の顔を知らないという設定になっているのが、妙に印象に残ってしまった。