『ザ・クリーナー 消された殺人』レニー・ハーリン高木佑介
[ DVD , cinema ]
サミュエル・L・ジャクソン、エド・ハリス、エヴァ・メンデスとキャストは充実しているが、都内では一館だけでしかやっておらず、客の入りもそれほど良いとは言えなそうなので、もしかするとすぐに公開が終わってしまうかもしれないレニー・ハーリン監督作。
その豪華と言えば豪華なキャストと、親切に添えられている副邦題と、物語を支える主人公の経歴と舞台背景にただようフィルム・ノワール的な芳香のせいでか、(全然関係ないのだが)ロバート・ベントンの『トワイライト 葬られた過去』を思い出した。ベントンのその劇場未公開作では主人公ポール・ニューマンは元刑事の探偵だったが、レニー・ハーリンのこの作品では元刑事でいまは殺人現場に残った血を洗い流す掃除屋さんをしているトム(サミュエル・L・ジャクソン)が主人公である。ある日警察から掃除の依頼を受け、仕事を手際よく終えるトム。しかし翌日になって、警察側がその殺人事件を知らず、依頼主も存在しないことに気づいたトムは、いつの間にか事件に巻き込まれていく……。
とはいえしかし見終わってみると、それらはあくまでも物語の表面的なレベルに留まってしまっている感が否めず、たとえば先ほど挙げたベントンの作品にあったような重みある画面や物語展開がそこにあるわけではなく、さらに付け加えれば『チャイナタウン』のようなもう何が何だかわからない世界がドロドロと画面の内外にうねっているわけでもない。もちろん、現場に残された殺人の血痕をテキパキと掃除することと、背後に隠された秘密を次第に暴いていくことという対照的な役割の狭間で葛藤する主人公の姿が印象的でもあるのだが、とはいえしかし、そもそも裏で主人公たちを苦しめ、この事件に関して決定的な鍵を握っているに違いなかったはずの汚職警官を束ねる大ボスが、その名前がたびたび会話に上がり世間的にも渦中の人にも関わらず、ついぞ一度もその姿も声も現さないことに、大きな疑問が残ってしまう。『ヒズ・ガール・フライデー』や『フィラデルフィア物語』といったタイトルがチラっと埋め込まれているのが妙に印象に残るには残るのだが。
ところで、この映画のエド・ハリスは随所でオーラのある演技をしていてとても視線を惹きつけられるのだが、どこかで見たような感じだと思ったら、ベントン(またもや)の『白いカラス』での鬼気迫る表情をしていたエドの役柄にちょっぴり似ていたのだった。
銀座シネパトスほか全国ロードショー中