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March 13, 2009

『火と血と星』キャロリーヌ・デルアス
結城秀勇

[ cinema , sports ]

 白黒の画面、独特のタイトル、レナ・ガレルとその祖父モーリス・ガレルというキャスティング、若い左翼活動家が選挙の結果に幻滅するというストーリー、そうした要素を含んだ映画で(しかもフランス映画祭で上映されるとなればなおさら)フィリップ・ガレルという固有名詞を思い浮かべない方がむしろ難しいが、冒頭で若い女性と幼い娘のふたりが過激な歌詞を伴ったパンクなビートに身を躍らせるのを見れば、過剰にそうしたことに囚われるのも考えすぎで、ただ新しい感性の漲る19分間という時間に身を委ねればいいという気分になる。そして上映後に気になって調べてみれば、『恋人たちの失われた革命』に出演し、ヴァレリア・ブルーニ=テデスキの『女優』の助監督も務めているというこのキャロリーヌ・デルアスという人物が、フィリップ・ガレルの娘であるらしいこともわかる(註:正しくは娘ではなく奥さん、すなわちレナ・ガレルのお母さんであった。若いことには変わりない)。
 この短編はタイトル通り「火」「血」「星」の三部からなり、それぞれの寓話が異なった角度からある思想を考察する。左翼思想の最後の砦と化したアパートの一室で、壁に自らの神話を構成するための写真を貼り付けている若い女性と幼い娘。「『チャーリーとチョコレート工場』、『ロバと王女』、」と娘が写真を壁に貼り付けたあとで、「最高の映画監督は?」という問いに「アラン・ギロディ!」と応えるのもご愛敬だ。政治に絶望し、自殺は怖くてできないからこのピストルで殺してくれと、次々連なっていく活動家の死体。また「夢食い虫」という存在について孫に語る老人。そのひとつひとつが充分に魅力的でもっと見ていたい気にさせるし、またこうした時間をもっと長く持続させる技量もこの監督は備えているだろうことを期待させる。おそらくこの監督が処女長編を完成させる日はそう遠くないだろうし、その日までこの名前を覚えておくのも無駄ではないはずだ。

フランス映画祭2009 3/14、10:30より上映