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March 18, 2009

『サッカー批評』42号「LOVE or MONEY」
渡辺進也

[ book , cinema ]

 雑誌には週刊誌、月刊誌、季刊誌とあるけれども、僕にとっての季刊誌といえば現在も、もう何年も前から『サッカー批評』である。個人的にも大好きな名前が執筆陣に並び、ネットやスタジアムでは知ることができないサッカーの話に溢れ、往年のサッカーファンをも唸らせるインタヴューが並ぶ。サッカーだけで140ページが組まれる読み物。今年も『サッカー批評』が出る度に新たな季節が巡ってきたことを知ることになった。
 最近の『サッカー批評』はむしろ週刊誌、月刊誌の内容を季刊誌でやっているという印象が強かったと思う。それは、しばらく国内サッカーと日本代表を交互に特集で組むことで表れている。それはまずもう一度自分たちの足元を見つめなおそうという意識もあるだろう。しかし、一方でそこにサッカーメディアの抱える難しさを想像することも容易い。たとえば5年前と比べてこれほどまでに情報が増えてしまったジャンルというものが他にあるのだろうか。5年前だったらそれだけでひとつの特集を組むことができた内容が、いまでは特集のほんの一部を占めることしかできないような読者が飛躍的に情報を持つようになってしまったジャンルが。さらには、3ヶ月といったらJリーグだって20節近く行われている。ヨーロッパ、南米まで視野に入れたらその数はもう眼も眩むほど。季刊誌とはそもそも即時性と思慮の深さのせめぎあいだと思うんだけれども、サッカーを対象にしている故にその間で最も翻弄されてきたのが『サッカー批評』なのではないかと思うのだ。
 オーストラリアとの最終予選があり、Jリーグの開幕直後に出されたこの最新号で、そちらには脇目を振る程度で『サッカー批評』は久方ぶりに大きな主題を特集のテーマに選ぶ。「LOVE or MONEYサッカーを支えるのは愛?それとも金?」。つまり、愛か?金か?である。まるでサッカーらしかるらぬ特集を持つこの号が読者にとってまとまりのないものに見えるのか、それともよくぞここまで扱ったという豪華なものに見えるかは読者それぞれだと思うのだけど、でも僕は久しぶりに貪るように『サッカー批評』を読んだのだった。ブンデスリーガのホッフェンハイムについての取材記事とかオーストリアまで行ってとったイビチャ・オシムのインタヴューとか、引退したサッカー選手(奈良橋と引退してないけど氏家!U-20ナイジェリア準優勝メンバー)に現役時代の給料の話を聞くとか、各国のチームでは財政とクラブ経営がどうなっているのかなどなど、そういうひとつひとつの記事が面白い(ひとつひとつの記事が面白いのはもともとのことなんだけども)。たぶんそれらの具体的な名前を見ただけでは全体像がみえないと思うんだけど、それが記事を読むとなぜかひとつの特集として成立している。僕なんかはそれこそが『サッカー批評』なんだよなぁと思う。ものすごく大きなテーマに向かっていろんな人が自分の知識と経験で果敢に立ち向かっていくというか。だから、ひとつの記事を読み終わるとすぐ次の記事を読みたくなる。
 誰もがわかるようにLOVE or MONEYに明快な答えなど見つかるわけはない。そしてそこに切り込んでいく方法だってひとつじゃないはずだ。でも、そこにいまだからこそ行うべきその方法で果敢に向かっていく。夏が待ち遠しい。