『シャーリーの好色人生と転落人生』佐藤央&冨永昌敬宮一紀
[ book , cinema ]
昨年夏の終わりに初めて仙台を訪れたときのこと。仙台メディアテークをしばらくうろついた後、仙台在住の友人・今野くんに連れられて近くの〈マゼラン〉という古書店に赴いた。映画や音楽、そして文芸方面で充実したラインアップを揃える小さな店内の一角はカフェ・スペースになっていて、そこで常連さんとおぼしき女性がひとりコーヒーを飲んでいた。
秋口の仙台で、時間は午後で、外は小雨が降っていて、店の軒先に猫が寝ていて、たくさんの古本に囲まれてコーヒー、というシチュエーションがあまりにもいい感じで、重い旅行バッグを担いだ図体のでかい男がずかずかと踏み込んで行くのはいかにも場違いに感じられた。その上魅力的な本がたくさんあるものだから、私の鞄はますます膨らんでしまうことになる。
店内を一通り見終わると、今野くんから店長の高熊さんに紹介されて、その場で世間話、という流れになったのだが、コーヒーを飲んでいた女性は菅原さんという仙台短編映画祭事務局の方で、聞けば、ある若手映画監督を映画祭に呼ぶための資金繰りをしている最中だという。そしてその若手映画監督は目下のところ水戸でシリーズ物のプロデュース作品の撮影に立ち会っているらしい。不思議なこともあるものだ、と思う。その後も菅原さんの口からは知っている名前が次々と出てくるのだった。
そのように思わぬ場所で本作の進行状況を聞かされていたものだから、ようやく新橋のレトロな試写室で若手映画監督の〈シャーリー〉シリーズ最新作を見たときにはちょっと感慨深いものがあった。nobody 29号にも多くの人がひしめき合って撮影を敢行する現場の様子をレポートも交えて掲載させていただいたが、一本の映画は実に多くの人の支えがあって出来ていて、事件は現場でも起きているし、現場じゃないところでも起きているのだ、ということを改めて感じさせる今回の〈シャーリー〉である。
映画の内容と全然関係のない話を書いてしまった。肝心の中身の方はと言うと、冒頭、薄やみの公園でベンチに寝そべるシャーリーと中内のコンビがおもむろに起き上がり、草の生い茂った土手をぬらぬらとひたすら歩き続けるその背後を、地方特有の短い電車が唐突に走り抜けた瞬間に、もうこれは間違いないと確信できるたいへん力強いものであった。もう少しまともな映画評はもう少し冷静になってから考えたいと思う。
『シャーリーの好色人生と転落人生』4/11(土)〜4/24(金) 連日20:30〜 池袋シネマ・ロサにて 2本立てレイトショー!