『ライラにお手上げ』ピーター&ボビー・ファレリー結城秀勇
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ファレリー兄弟最新作もdvdスルー。『ふたりにクギづけ』『二番目のキス』(そしてプロデュース作の『リンガー!替え玉★大作戦』も含めてもいいかもしれない)と、しっかり笑えガッチリ感動できる作品をここのところ続けて作ってきた彼らだが、『ライラにお手上げ』はなんだかとても後味の悪い作品になっている。もちろん暗い話だとか死人がでるとかではなく、気楽に見れることには変わりがない。しかし復活した下ネタの奥底になにかネガティヴなものを感じてしまう。もしかするとここまで悪意に満ちたファレリー兄弟なんて見たことがないかもしれない。
ロマンスグレー(?)な髪のベン・スティラーはサンフランシスコでスポーツ用品店を営んでいて、40歳を迎えようとしているが結婚の当てがない。友人も元カノも結婚していく。そこで結婚をしなければと焦る、というところからこの物語は始まる。あくまで恋ではなく結婚。しかしベン・スティラーの年齢設定も周りが次々結婚していって焦るという年頃でもなかろうに、どこか奇妙な感じを残したまま映画は素早く展開し、ふとしたことから運命のひとに出会い結婚する。そして新婚旅行に出たところ、その道行きで彼女のこれまで思ってもいなかった一面が次々に明らかになっていく……。そこで、いろいろ思い通りにはならなかったけど結局は彼女を再び選ぶ、という話になれば「再婚の喜劇」のような定型に落ち着くこともできるのだが、いかんせんこの映画のヒロインはスティラーの妻となったマリン・アッカーマンではなく、新婚旅行先のメキシコで出会うミシェル・モナハンなのである。
性格も生活も性的にも奔放で奇抜な女(アソコにピアスが着いている)と家庭的で趣味も合いプラトニックな関係を楽しめる女との間でどちらも選ぶこともできないスティラーの右往左往が描かれるのだが、結局彼はなにも選ぶことはできない。『ライラにお手上げ』の最後スティラーが置かれた状況とは、冒頭で父親に「結婚しないなら独身生活を楽しめ」と言われたその状況とほとんど同じなのだ。ゲイかと思われたほど女っ気のない男がいつのまにかモテモテになってはいるわけだが、本質的には人間に変化は訪れない。それはスティラーだけでなく、モナハンもアッカーマンもそれぞれに変わらない愚かさを継続していくのだ。
ファレリー兄弟はこれまでずっと、敗者の、敗者なりの勝利について語ってきたのだと思うのだが、ここには成功者も失敗者もいない。皆が皆、自分の置かれた状況に(満足ではないにしても)充足している。障害や偏執を激しくネタにしながらも、人間の最低限の人間性についてユーモアと肯定をもって描いてきた彼らの視点は、ここでは翻って「人は皆同じ」ことの悲惨さを描いている。上記の「再婚の喜劇」であれば笑いと感動をもたらすはずの、物語のはじめに戻るという状況が、ここまで寒々しさを生むとは。うがった見方をすれば、ジャド・アパトーがらみのラヴコメにおける女性崇拝的な結末に対するアンチなのだろうか。それにしても、エンドロールの半ばで登場するアッカーマンのその後に関する挿話は、思わず吹き出してしまいながらも、笑いを通り越して空恐ろしくなる。