『麻薬3号』古川卓巳高木佑介
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見るからに胡散臭い新聞社で寝起きをし、道で気に食わない男とすれ違えば問答無用で殴りかかる、そのうえ麻薬3号=ヘロインのヤバい取引にも平気な顔で手をのばし、挙句の果てには損得勘定を考えずにとりあえず拳銃をぶっ放して事態をややこしくもさせるのだから、この映画の主人公である長門裕之はまさに見紛うことなき“ならず者”だ。飽きた女には目もくれず、隙あらばヒロポン、もちろん堅気の労働は一切拒否(しかしこの映画にはそんな彼が募った就職面接のシーンが冒頭に据えられている)。こんなにも打算的で前後の脈絡がない行動ばかりする男が映画内にいるのに、知らん顔で物語を先へ先へと進行させていいものなのかとしばし我が目を疑う。むしろ、長門裕之演じる“ならず者”のアクションのあとに、明らかに遅れて物語が追いかけてきているようにさえ感じられる瞬間があるのだった。
「麻薬3号」――危険な香りが並々ならず漂うこのタイトルの魅力もさることながら、映画を内側から食い破らんばかりの長門裕之の“ならず者”っぷりに、はてこの作品のタイトルは一体何だっただろうかと忘れてしまうほどに終始視線を奪われる。彼を配下におさめんとする暗黒街のボスやその右腕のヤクザ者も、いつの間にか長門裕之という存在によってあっちこっちへ翻弄される。登場する女性たちもみんながみんな主人公にどういうわけか恋に落ちているように見えてくる。とにかく、大暴れ。とにかくそんな男から最後まで目が離せない。
もちろん、そんな男に次第しだいに「堅気になりたい」とまで思わせるヒロイン・南田洋子を、この『麻薬3号』は十分な説得力をもって魅力的に描いているということは最後に書き添えておきたい。時折現われてはすぐにいなくなる主人公の帰りをずっと待っている姿もたしかに良いのだが、いざ男がそんなヒロインのもとに駆けつけてみると、部屋を出ていたり宿をかえていたりと、どこかスルスルと男の前から消えていこうとしているかのような印象があって、それが不可解でもあり同時に魅力的でもあるのである。