『ボルト』バイロン・ハワード、クリス・ウィリアムズ結城秀勇
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『魔法にかけられて』に引き続きまたしてもディズニーは、入れ子状の、ファンタジーの生成についての自己言及的な作品を製作している。そしてこの『ボルト』も『魔法にかけられて』と同様に、その過程を経てできあがった作品が果たしてファンタジーとして成立するのかという点においては、あまり検討を重ねているようには見えない。
プリンセスが現実の世界にやってきて、現実とファンタジーは違うことを学び、現実の中で生きていくことを選択するという『魔法にかけられて』のあらすじとほぼそっくりそのままな筋書きが『ボルト』にも当てはまる。ドラマのヒーローであるスーパードッグとして育てられたボルトが、撮影所の外に出たとたんに自分は単に普通の犬であることに気付く。その上でなお「My person」たる自分の飼い主と結ばれることはできるのか、というもの。
結局のところ、すでに「そして幸せに暮らしましたとさ」を凌駕するクリシェとなっている「現実は夢とは違って厳しいけれど、夢より素晴らしい」が、作り手の怠惰で受動的な現状肯定にしか見えない。子供向けというパッケージングの裏側にあるのは、ひどく進行した自家撞着だ。それはシナリオレベルに留まる話ではなくて、もともと交換可能な商品であるボルトが普通の犬としてのアイデンティティを確立すればするほど、描写の上でも次第に愚かで醜く、というよりも手抜きの描写になっていくように感じてしまった。