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August 27, 2009

Aimee Mann JAPAN 2009 @ SHIBUYA-AX
宮一紀

[ cinema , music ]

 4年ぶりとなるエイミー・マン単独来日ツアーの東京公演が8月25日に行われた。前回のツアーは恵比寿リキッドでのバンド編成だったそうだが、今回は3人による変則的なアコースティック。ほとんどがスタンディングのフロアで、7,500円というやや強気な価格設定。何となく開始前からイベントのオーガナイズに対して不信感が募る。とはいえ当日はけっこうコアなエイミー・ファンが集まって、イントロでは即座に大きな歓声が幾度も上がり、エイミーとフロアとの掛け合いもとても親密なものだった。会場はほぼ満員で、いかにも音楽やってますという感じの風貌の方々から会社帰りのサラリーマンまで幅広い人気が窺える。やや冷房が効きすぎていたSHIBUYA-AXのフロアは(まったくオーガナイズ側には不備ばかり目立つのだ)、やがて熱気を帯びていくのだった。
 先に書いたように、サポートメンバーはたったふたり。メンバー紹介を聞き取れなかったのが痛いが、茶色いトラッドなセットアップに身を包んで足下をコンバースで外していたおしゃれな人は、前作『@#%&*! SMILERS』以降、多彩なキーボード演奏でエイミーのサポートをしているジェイミー・エドワーズではないだろうか。だとしたら当日のピアノの超絶なテクニックにも納得がいくが、残念ながらいろいろ調べてみても確たる証拠は見つからなかった(サポートメンバーのクレジットくらい出してほしいものである)。ただ、ここ最近のエイミー・マンのツアーにはもっとも頻繁に参加している人物だから、アジア・ツアー(日本の後はシンガポールとオーストラリアを回るらしい)に同行していても不思議ではない。そしてもうひとりの花柄シャツを着た陽気そうな男の正体が、個人的にはとても気になっている(「気に入っている」と言った方が正しい)。彼は演奏中、赤ワインをひたすら飲み続けていて(きちんとワイングラスまで持ち込んでいた)、自分の演奏する楽器を取り違えたり、エイミーの演奏する楽器を勝手に別の場所に置き直したりして、他のふたりに多大な迷惑をかけていた。このマルチ・プレーヤーは、『@#%&*! SMILERS』の中の「Borrowing Time」でモーグ・シンセを担当していたジェビン・ブルーニではないかと勝手に思っている。ブルーニはフィオナ・アップル『Extraordinary Machine』などにも参加しているキーボード/ギター奏者で、エイミー・マンのアルバム制作には2004年頃から参加している。以上、サポートのふたりについて誤りがあればどうか指摘していただきたいのだが、フロントにはもちろんエイミー・マンが立つ。ステージに小走りで現れた彼らの佇まいや3人のバランスがとても微笑ましくて、その時点でけっこう満足してしまう。
 ステージにはアコースティックギター、エレキ・ベース、グランド・ピアノ、電子ピアノ、シンセサイザー、フロアタム、シンバルなどが置かれていた。ドラムセットはなかった。『@#%&*! SMILERS』でもそうだったように、最近のエイミー・マンはきわめて“Do It Yourself”な流れに身を任せているようで、ステージ上ではメンバー間でせわしなく場所や楽器を取り替えながら演奏が行われた(そのために例のワインの男が混乱していたわけだ)。ギターもベースもそれぞれ1本ずつ。この手のライヴではギターなど3本くらい用意するのが常套だと思っていたが、1本のギターを3人でまわして使ってしまう。当然音の厚みは大所帯のバンドには圧倒的に劣るわけだが、そのぶん人がどんどん入れ替わっていくことで、楽曲に(ユーモアも含めて)多層的な広がりをもたらそうということなのだろう。エイミーの「それで十分でしょ?」と問いかけるような私的で素朴な演奏に、こちらも「それで全然十分」と深く頷く。途中、エイミーが「2週間練習した楽器を披露します」と冗談っぽく言って手にしたのはアルト・リコーダーで、その演奏はもちろんお世辞にも上手いとは言えないわけだが、その姿にこれからもDIYでやっていくのだという強い意志を垣間見たように思う。
 セットリストはアルバム『Bachelor No.2』と『Lost in Space』に収録されている楽曲を中心に、映画『マグノリア』のサントラからもかなり多めのラインアップとなった。「One」をライヴでやるとは思わなかったが、ジェイミー・エドワーズ(と思しき人)のピアノ演奏には本当に凄みがあった。いずれにしても、最近のアルバムからの選曲は少なかったと思う。今回の来日には新作のプロモーションの意味合いがほぼなかったからなのか、彼女自身これまでの楽曲を見つめ直してリストを考えてきたのだという。デビュー作と言ってもいい「Voices Carry」から20年を超えるスパンのあいだに点在する楽曲を、コンパクトな編成で、しかも多層的に聴かせるということ。それはとても現代的な試みだと思った。
 なお、本日27日には大阪公演が大阪BIGCATにて行われる。関西在住の方はぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。