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June 24, 2010

『アイアンマン2』ジョン・ファヴロー
結城秀勇

[ cinema , cinema ]

 テレンス・ハワードが降板した時点で、このシリーズ続編には正直あまり期待していなかった。スカーレット・ヨハンソンの起用が大々的に宣伝され、先日公開されていた『シャーロック・ホームズ』ではロバート・ダウニーJr.の演技がほとんどトニー・スタークに見え、完全にブロックバスター的な大作にシフトしたのだろうと思っていたのだ。前作のダウニー Jr.、グウィネス・パルトロウ、テレンス・ハワード、ジェフ・ブリッジスというあまりにシブいキャスティングの、近年珍しいまでに俳優のコンビネーションによってのみ成り立つ映画はもう見れないだろうと。
 事実、『アイアンマン2』は前作とはかなり趣の変わった作品になっていると言っていいと思う。にもかかわらず、これは素晴らしい俳優たちの映画だ。ハワードに代わってドン・チードルを入れ、ヨハンソンとともにサム・ロックウェルが加わり、敵役はミッキー・ローク。バジェットと登場人物が増え、もはや少数の俳優による対話劇としては成立しなくなった代わりに、各瞬間の俳優のパフォーマンスが作品自体の結構をぶちこわすくらいに、とにかく役者の良い部分を詰め込もうという感じがうかがえる。この映画がミッキー・ロークのあの後ろ姿で幕を開けるのを見れば一発でわかるように、ジョン・ファヴローは俳優の一番いい部分を抽出する術を知っている。そしてファヴロー自身もまた俳優なのであり、運転手を演じた彼や上院議員を演じたギャリー・シャンドリングのような脇役まで含めたひとりひとりの俳優の顔が、上映後にここまで強く記憶に残る映画など、ここのところ見た覚えがない。
 そして個人的にこの映画の最大の功労者だと考えるのは、脚本のジャスティン・セローだ。彼もまた俳優であり、『トロピック・サンダー』の脚本家でもある。俳優が皆いいとはいえ、やはり『アイアンマン2』の最良の部分は、前作からコンビを継続するダウニーJr.=パルトロウの対話なのであり、CEOに就任したパルトロウのもとに彼女が嫌いなイチゴを携えてダウニーJr.が訪れるシーンは特に秀逸だ。あれ、なんと呼べばいいんだろう、「ニュートンズ・クレイドル」的な金持ちの机に置いてあるような装飾品越しのふたりのやりとりは素晴らしい。このふたりの役者の風格なのだろうか、思わず「ソフィスティケイティド」という単語が頭をよぎったのだが、そんな体験も(ロマンティック・コメディと呼ばれるような作品においてさえ)近年した覚えがない。
 というわけで『アイアンマン2』は今年最初の真っ当なエンタテイメントアメリカ映画であると言っていい気がするのだが、なんとなく人があまり入っていない印象なのは何故だろうか。

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