関東大学ラグビー対抗戦 早稲田対慶應 8-10 梅本洋一
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スカパーの解説に登場した野澤武史は、「慶應のOBであることを誇りに思う」と言っていた。10年ぶりの勝利なのだから野澤が喜ぶのももっともだ。だが、早稲田のゲームにはまったく感心できない。負けたからでもあるが、それ以上に、どういう形でこのゲームを勝利に導くのかというヴィジョンが、ゲームを見ていてまったく感じられなかったからだ。伝統の早慶戦だし、昨年は20-20の引き分けだったので、まさか慢心はなかったと思うが、「俺たちのが強いぜ」という意識がどこかにあったと思う。ボールは取れているし、回せているので、いずれトライは取れるだろうという共通の意識がどこかで働いていたのだろう。
対する慶應は、慶應が勝つにはこれしかないという意思統一があったのだろう。ディフェンスで勝つ。これだけ。ナンバー8と12番という中心選手の復帰が気持ちを支えていた。スクラムとラインアウトでイーヴンなら、後はディフェンスだ。突飛なことはしない。ボールが取れたら全員で繋ぐ。無闇に蹴らない。ポゼッションで下回るのなら、ボールを大事にする。慶應が80分続けたのはそれだけ。
対する早稲田は多種多彩なことを試みた。体格に恵まれたSOは、勝負に行ったり、飛ばしパスを試みたりしたし、才能あふれるフランカーは、ラインに入りブレイクを試みたり……。ひとりひとりが持てる才能の限りを尽くしていろいろなことをした。SOのPGが決まらないと見るや、12番に蹴らせてみたり、監督が信頼しているらしい21番を付けた5年生に蹴らせるために、レギュラーの11番を代えたりした。多種多彩なのはいいが、問題は、それらがことごとく失敗したことである。ひとりひとりの能力はおそらく早稲田の方が優れている──ちょっとだけど──し、押されている気はしないが、トライが取れないし、PGが入らない。そのうち才能のある個々人が個人プレーに走り始め、チームとしてこう戦うというヴィジョンがプレーからは見られなくなる。これでは慶應が勝つに決まっている。
慶應が徹底したディフェンスを見せるのは戦う前から想定されていた。今シーズンの慶應を見ていると、明治に負けたときのようにフォワードがやられなければ、相当粘れる。ただし、それほど強くないチームにも大勝はしていない。つまり、この慶應に勝つには「競り勝つ」しかないだろう。どうやって?答は簡単だ。キックだ。ディフェンスをしつこく粘ってくるなら、ディフェンスラインを後ろに下げること。SOでもセンターでもFBでもファーストチョイスはキック。SHのボックスキックを多用する。そして、FWは前へ走る。ゲームとしては面白みを欠くかも知れないが、エリアで勝ち、そしてPGで勝つ。トライは取れるときに取ればいい。そういうゲームを徹底すれば早稲田は楽に勝利を収めたはずだ。早稲田の方が強いのだが、それも少しだけ。だったら、戦術で大勝! そいう選択を是とする価値観が欲しい。