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January 31, 2011

2011アジアカップ決勝 日本対オーストラリア 1-0
梅本洋一

[ sports ]

 7年前の中国開催のアジアカップでの優勝も、同じように薄氷を踏む勝利の連続の末に勝ち取ったものだったが、カタール大会がそれと異なるとすれば、このファイナルでその相違点が明瞭になる。中国大会のファイナルの対中国戦はかなり楽なゲームだった。何もしなくても日本の完勝。当時、悪化していた日中関係が選手たちを強くしたとも言えるだろう。だが、今回のファイナルは、明らかに2つの選手交代がもたらしたものだった。より戦術的なものだ。
 もちろんひとつめの選手交代は、56分の藤本アウト、岩政イン。前半の藤本を見れば、交代は時間の問題だと思われた。消えていた時間も長かったし、ボールをもらえば弱気なパスから逆襲を浴びた場面も少なくなかった。オーストラリアの戦術は極めて単純で、ロングボールをガンガン上げて、キューウェル、ケイヒルで勝負というもの。だが、ガラタサライのキューウェルは見たことがないが、リヴァプール時代でもサイドに張る選手で、CF的な動きはしていなかった。ケイヒルもプレミアでの彼を見る限り今シーズンはそんなに調子が良くない。
 だが、中盤を省略したロングボールに日本が弱いのは相変わらず。両サイドバックの攻め上がりに活路を見出す日本のやり方が、逆にオーストラリアのロングボールを許していた面がある。出所を押さえられない。オジェックだってダテにレッズを指揮していたわけではない。日本の長所を十分に承知して、そこを消し、単純な戦術に集約することで、チームの優位を保とうとしたわけだ。で、ザッケローニはどうするか?
 ぼくは、てっきり今野をアンカーにすると思ったが、長友の意見で、今野を左サイドバックに残し、長友を一列前に上げた。それまで長友ひとりでやってきた仕事を今野と長友に分担する。誰が見ても、この瞬間に、日本の優位が確立した。オジェックも、長身のエマーソンを投入し、日本の左サイドの分断を図ったが、長友のスピードが勝った。長友がサイドアタックに専心できることで、ウィルクシャからのロングボールが減少した。
 そして次の交代は延長に入った98分の前田アウト、李イン。この瞬間にテレビを見ていた人の多くは李が決勝点を決める予感がしたのではないか。もちろん長友→岡崎のアタック(結局、岡崎のヘッドは枠をそれたが)が、李のゴールを伏線になっている。長友のサイドアタックが鋭いので、そのサイドにふたりのディフェンダーが寄り、李が完全にノーマークになった。李のヴォレーも綺麗だったが、長友のクロスの瞬間、李のシュートコースが見えたのは、ぼくばかりではないだろう。
 そして、120分の内田アウト、伊野波インにも触れておこう。韓国戦で5バックで逃げ切れなかった失敗をザッケローニは忘れていない。サイドアタックの必要がなくなったところで、ディフェンスに専任できる伊野波を入れた。
 勝つためには、もちろん選手たちの頑張りが必要だ。フィジカルなコンディションが戻ってこない短期決戦で、このメンタルな頑張りは何よりも必要だが、このゲームでの3つの交代は、その頑張れば勝てるという背景をしっかりと整えていた。その意味でベンチワークの勝利だ。ザッケローニはなかなかやる。応用問題が解けるようなチームは強い。