2010-11チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦 アーセナル対バルセロナ 2-1 梅本洋一
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ロンドンでホームだとはいえ、アーセナルが初めてバルサを下した。だが、実際にゲームを見た人なら誰でも分かるとおり、内容では圧倒的にバルサが押していた。スタッツもそれを物語る。ポゼッションで61% :39%。61%という数字はプレミア中位クラスならアーセナルが相手チームに記録する数字だ。セスクを中心に中盤を支配し、両サイドをサイドバックが駆け上がり、ヴァイタルエリアの中でも細かいパスが繋がれる。そのとき、ポゼッションが6割を越える。このゲームでは、チャビを中心にしたバルサがアーセナルを圧倒していた。メッシが、ビジャがシュートを繰り返す。イニエスタの出来はそれほどよくなかったが、ペドロ、ダニエル・アウベスは好調で、アーセナルの中盤にいるソングは、何度もファールを繰り返し、やっとのことで、バルサの攻撃が遅延された。セスクにもフレアはなく、中盤は、バルサに完全に支配されていた。両サイドでも、ウォルコットのスペースは消され、ディフェンスに追われていて、クリシもエブエ(サニャ出場停止)もサイドライン沿いを駆け上げる場面はほとんどなかった。そして、前半は、メッシのシュートがポストをたたき、ビジャがシュートを決めた。
これではアーセナルに勝機はないだろうし、誰の目で見てもバルサが追加点を入れるだろうと想像したろう。バルサも前半に上げたアウェイゴールのせいで、かさにかかって攻めると言うよりは、このままポゼッションを保ってゲームを終わらせる算段だったかも知れない。アーセナルのサポーターを自認するぼくも、メッシが追加点を取ることはあっても、アーセナルの勝ちはないだろうと諦めかけていた。グアルディオラが次に打った手は「ビジャ、ごくろうさん」で「ケイタ、イン」。中盤を厚くして、アーセナルを寄り切るという算段。当然の策だろう。ほぼ同時にヴェンゲルは、ソング、アウト、そしてアルシャヴィン、イン。これが68分。そして約10分後にウォルコット、アウト、ベントナー、イン。ハイボールを入れてベントナーの頭で同点狙い。仕方のない選択だ。この状態を打ち破るためには、個人技しかないだろう。けれども、そんな強引な選手はヴェンゲルのアーセナルにはいない。でも、いたんだな、これが。最近、絶好調のファン・ペルシ。ほとんど角度のないところからバルデスの右手をかすめて、ファン・ペルシの左足から強烈なシュートが突き刺さる。
フットボールはメンタルなゲームだ。ケイタやブスケツの網をかいくぐってアーセナルのパスが回るようになった。でも、残り時間が少ない。ボランチに下がったナスリが右サイドを疾走し、アルシャヴィンにマイナスのパス。アルシャヴィンはインサイド・キックで、今度はバルデスの左を抜いた。「特別な一夜だ」とヴァンゲル。
ポゼッションでは圧倒されながらもシュート数ではアーセナル。もちろんファン・ペルシもアルシャヴィンも良かったが、この日、もっとも活躍したのは弱冠19歳のジャック・ウィルショアだろう。バルサの中盤で回りに回るボールを常に追いかけ続け、本当にひたむきに頑張った。昨年までの少年の面影が、立派なフットボーラーの面構えに変わってきた。5〜6年前のセスクのように毎試合成長をしている。
そして、次戦はカンプナウ。アーセナルはもう一度「特別な夜」を迎えられるだろうか。