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May 3, 2011

イタリア映画祭2011レポート 2011年5月1日 
隈元博樹

[ cinema ]

Il terzo giorno

 映画祭も前半を折り返す。ダニエーレ・ルケッティ『ぼくたちの生活』。「Sacher Film」設立当初からナンニ・モレッティと協働していたということは知っていたけども、このフィルムにはどこかオリヴィエ・アサイヤス、とくに『8月の終わり、9月の始め』を喚起させる瞬間が随所に存在している。それは人物をキャメラが尾行(ルケッティ曰く、「ペディナメント」と呼ぶらしい)し、また時として無造作にブレを起こすハンディ撮影が功を奏しているからであろうか。
いやもちろんそれだけない、序盤に出産死してしまうクラウディオ(エリオ・ジェルマーノ)の妻であるエレナ(イザベッラ・ラゴネーゼ)や建設中の事故として闇に葬り去られたルーマニア人の作業員が、単にフラッシュバックされることない手法によってラストまで「そこに」留まり続けていることによるものでもあるからだ。彼女の遺品、残された3人の子どもたち、作業員の息子…生前に妻と約束したサルディーニャ行きのチケットが、友人からクラウディオに手渡されたラスト・シーン、不覚にも泪がこぼれたことをここに告白しておく。
 さらにルケッティがモレッティと長く仕事を共にしていることを考えると、これがローマ郊外で撮影されていることにも触れておきたい。彼は過去に公営住宅に住むプロレタリアートな人々のドキュメンタリーを撮っており、このフィルムに映るクラウディオたちの住むローマはいかにも郊外的な衣食住に溢れている。不法滞在者を雇うしがない建築士というクラウディオの設定にも素直に頷けるところである。
本日の昼食は銀座6丁目にあるレストラン「あづま」の「豚のじゅーじゅー焼き」。ここは肉というより肉の下に敷かれたキャベツ独特の甘さに度肝を抜かれた。40年近くの伝統を誇る秘伝の醤油ソースがそれに絡み合ってしまえばもはや言うことなし。
 本日最後はガブリエーレ・ムッチーノ『もう一度キスを』。これはあとで知ったことだが、ムッチーノのフィルモグラフィーを見ると最近ではウィル・スミス主演の『幸せのちから』や『7つの贈り物』を監督、つまりハリウッドに拠点を移しているようだ(なるほど、だから中盤カルロ(ステファノ・アッコルシ)が自宅で観ている映画が『アイ・アム・レジェンド』だったのか!)。さて肝心のフィルムはというと、男女数人による10年後のリマリッジ・コメディ。というのも翌日上映される『最後のキス』の10年後の物語なのである。だからこうした続編モノの永遠の問題点をこのフィルムも抱え込んでいることは当然否めない。登場人物たちの職業や境遇を省略過多(ナレーション含め)している点は、どこか誠実さを欠いているように見えた。
 それにしても離婚調停中の渦中にあるカルロの元妻・ジュリア(ヴィットリア・プッチーニ)、離婚を諦められないマルコ(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)の妻・ヴェロニカ(ダニエラ・ピアッツア)がそれぞれの浮気相手にささやく「sono incinta」(=「妊娠したの」)の殺傷能力は尋常ではない。『ファンタスティックMr.FOX』しかり、『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』(5月28日公開予定)しかり、この「妊娠したの」を最近よく耳にするのは単に気のせいなのだろうか…

『ぼくたちの生活』
【東京】 5月1日(日) 13:10 / 5月3日(火・祝) 15:15
【大阪】 5月7日(土) 12:30
『もう一度キスを』
【東京】 5月1日(日) 18:10 / 5月4日(水・祝) 10:20
【大阪】 5月8日(日) 18:15

イタリア映画祭2011ホームページ

『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』爆音プレミア上映5月13日21時より