ジロ・デ・イタリア2011 後半まとめ黒岩幹子
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人食い、火星人、ピンクのサンタクロース。これらは今回のジロ期間中、アルベルト・コンタドールにイタリアのメディアやライバルたちから与えられたあだ名だ。たぶんイタリアのサイクルロードレース・ファンたちは、チャンピオンリーグ決勝におけるマンUのサポーターのような気分を2週間以上に渡って、このスペイン人王者に味わわされたのだろう。何しろ、最終日の個人タイムトライアルでゴール前の数百メートルをガッツポーズで流しながら(みんなゴールラインまで鬼の形相でペダルをこいでいる中)、ステージ3位に入ってしまうという憎たらしさだ。それほどまでにコンタは強かった。総合2位には去年4位のミケール・スカルポーニ、3位には去年と同じくヴィンツェンツォ・ニバリが入ったことを考えれば、順当な最終結果ではある。ただ、コンタとそれ以外の選手の差がこれほど大きいとは誰も思っていなかった、思いたくなかったということだ。
それにしてもコンタの最大の対抗馬として期待をかけていたニバリがここまで歯が立たないとは思っていなかった。確かにコンタが第9ステージで早々とピンクのリーダージャージを着て以降、最も計画的な反撃の姿勢を見せたのはニバリと彼の所属チーム・リクイガスだった。実際、彼が得意とする長いダウンヒルがあるステージでアタックに打っても出たのだ。しかし、ダウンヒルで築いた分の差を、その後の登りであっさりと逆転され、むしろ突き放されてしまうのではどうしようもない。その結果、絶好のチャンスをものにできなかっただけでなく、大会後半は守りに徹したスカルポーニに逆転されてしまうはめになった。去年優勝したイヴァン・バッソには強力なアシストであるニバリがついていたが、今年のニバリには去年の自分に代わるアシストがいなかった。それがニバリの敗因だとする意見もあるが、それはニバリに対して点が甘すぎると思う。登りのアタックの爆発力を身につけない限り、どれだけ強力なアシストがいようとも、コンタには太刀打ちできなかったのではないか。少なくとも今回のジロに関しては間違いない。
苛酷なコース設定で知られるジロの中でも、特に厳しかったと言われた今大会の最大の特徴は、チームでの組織的な戦い方がほとんど機能しなかったということに尽きると思う。スプリンターたちの活躍の場となる平坦ステージでさえもそうで、現役屈指のスプリント力とチーム力を誇るマーク・カベンディッシュとHTCハイロード・チームが、列車を形成してゴール前200mでカベを発射させるという常勝パターンに持ち込めたのはたった1ステージだけだった。山岳ステージにいたっては、エースが勝負をかけるだいぶ前からアシスト勢が牽引に疲れて脱落してしまい、10㎞以上を残した地点(ツールやブエルタ、あるいは去年のジロならまだ1,2人のアシストは残っていた地点)で集団にエースしか残らないという場面が連日のように見られた。もちろん最後は個人と個人の戦いであり、場合によっては他チームの選手と共闘体制をとることもあるのがグランツールであり、ロードレースだ。だが、やはり個人の戦いに持ち込むまでのチームプレーというのもひとつの大きな醍醐味なわけで、そりゃ、毎日のようにカベンディッシュが列車に引いてもらって勝つレースが続くのもつまらないのだけれど、ここまでアシスト陣にスポットが当たらないのも寂しいものだ。
そういう意味で、今大会はエース選手(コンタ除く)やチームの総合力ではなく、普段はアシスト陣のなかに埋もれている選手や、久しぶりにグランツールに出場したベテラン選手の活躍が光る大会ではあった。6年ぶりの山岳ステージ勝利で復活を遂げた“小さな巨人”ホセ・ルハノや、10年以上のアシスト人生を経てプロ初勝利をあげたパオロ・ティラロンゴ、そして連日アタックを繰り返し、区間1勝と総合4位を手中にしたジョン・ガドレなど、30代に差し掛かった選手が不屈の走りを見せてくれた。そして、ルハノやティラロンゴが勝ったステージで、彼らにただひとりくっついて行き(というか彼らのアタックを利用して集団から逃げてみせ)、彼らに“勝ちを譲った”のがコンタドールだったというのも、今年のジロを象徴している。
さて、1カ月後にはツール・ド・フランスが始まる。なぜか去年のドーピング疑惑の審査が8月に延期されたことで、物理的にコンタドールのツール出場も可能になった。グランツール2連戦を勝つのは不可能に近いと言われているが、ここまでの一人舞台を見せつけたからには、コンタにはぜひともツールに出場して、宿敵アンディ・シュレックと雌雄を決してほしいものだ。7月が待ち遠しい!