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June 14, 2011

『NINIFUNI』真利子哲也
渡辺進也

[ cinema , cinema ]

 まだ興奮冷め切れぬままにこれを書いているので、乱文であること、ご容赦いただきたいと思う。とにかく、一刻も早く吹聴して回りたくて仕方ないのだ。『NINIFUNI』がとんでもない傑作であること。どれだけ言葉を費やそうともかなわないくらいにすごい作品であり、少しでも多くの人の眼に触れることを願ってやまないことを、もうとにかく吹聴したくてたまらないのだ。
 『NINIFUNI』はこれまで見たことがないような何か特別なことが起こるのではない。壮絶なドラマが巻き起こるのでもない。言ってしまえば、本当にうんざりするくらいに見慣れた国道沿いを男が歩き回り、眺めているその様があるだけである。強盗して指名手配された男が国道沿いを車で佇んでいる。男は車でいくらか移動をすれば、空き地に止まり、ぼそぼそとものなど食べ、ただ辺りを漠然と見回し、歩き回っては二車線の道路を渡る。そこにある何の変哲もないものを僕らは見る。
 あれもない、これもない。あまりの衝撃にこれまでの自分の映画観を壊すところから始めざるをえない。とはいっても、自分の知っている映画と違うところばかり言っても仕方がない。では、『NINIFUNI』のいったい何がすごいのか?
俳優だろうか、もちろんそうである。宮崎将さん演じる男は一見何をしているのかわからない。ただふらついているだけのように見える。ただ、その覚束ない足取りが彼にとってそれまでとは違う世界に移っていることがうかがい知れる。何でもないことが逆に雄弁に語っている。画面に映る風景だろうか、もちろんそうである。男は車を止めては車内から降り、辺りを歩き回っては周囲をぼんやりと眺める。いびつな形をした木々、風力発電の風車、寄っては返す波。あるいはパチンコ屋や商店の道路にかぶさるように立つ看板。そこにあるのは決して目新しいものではない。にもかかわらずその風景がぐらつき始めるように感じる。聞えてくる物音だろうか、もちろんそうである。道路をかなりのスピードで走る乗用車やトラックの通過していく音、男の乗る車のエンジン音。聞きなれたはずの音が妙に耳に残る。浜辺でPVを撮影するももいろクローバーとそのクルーたちだろうか、もちろんそうである。男がいる車のすぐその鼻先で、男などこの世にいなかったようにキレキレのダンスを見せるももクロ、そしてそれを逃すまいと動き回るクルーたち。男のいる車窓から遠くに見える彼女らの姿がすでに男のいる世界とは異なる場所であることを残酷なまでに描いている。
 いつからか画面には波が立つ海が映っているのに否が応でも気がつく。男が車に佇み、ももクロが踊るこの飯岡海岸。ここもまた、震災の被害を受けたことを僕らは知っている。もはや、この映画で見られるままに姿を残していないこの場所で、結構見慣れているものと思っているこの場所で、ただひとりの男がいる(/いた)ということにただただ心が揺れ動かざるをえない。でも、その理由はうまく言葉で説明できない。
 騙されたと思って是非『NINIFUNI』を見てほしい。言葉足らずのこの文書では、この映画のすばらしさを語りきったとは思わない。是非、その眼と耳で確認してほしい。


6/11~7/1テアトル新宿にてレイトショー上映
Movie PAO『ファの豆腐』『NINIFUNI』『冬の日』の3作品で上映。

nobody35にて真利子哲也監督、主演の宮﨑将インタヴューを掲載!