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October 9, 2011

ラグビーW杯──(8)クォーターファイナル(1) 
梅本洋一

[ cinema , sports ]

アイルランド対ウェールズ 10-22

理想的な組み合わせになったクォーターファイナルの第1戦。スタッツは、ポゼッション(54-46)でも敵陣22メートルに侵入した時間(14,51-6.34)でもアイルランドが勝っていたことを示すが、スコアは見ての通り。トライ数では1-3と上記とまったく逆の数字を示している。
 もちろんラグビーは、サッカーとは異なり、スタッツの内容は勝負とは異なることが多い。だが、ノックアウトシステムに到達する以前のプール戦のようにアイルランドが戦えば、おそらく勝負の趨勢は分からなかったのではないだろうか。(アイルランドを応援していたので、こちらの目がアイルランド贔屓になっているのだろう。)だが、別の数字にも目を向けてみよう(いずれもW杯公式サイトから)。一番タックルしたのはウェールズの6番、ダリー・ライディエイトの24、次いで7番でキャプテンのサム・ウォーバートンの21。これはゲームを見た人にとって非常に印象的だったウェールズの低いタックルによっても証明されるだろう。もちろん、開始3分のシェーン・ウィリアムズのトライでリズムに乗ったとも言えるが、現実にはまずディフェンスに神経を集中し、我慢強くゲームを運んだ。
 対するアイルランド。これまでならオガーラのPGで刻んでくるところを、ペナルティからタッチを狙う。ウェールズのゴールに迫り、モール勝負──それまで、アイルランドは愚鈍な戦術をあえて選択し、気持ちをひとつにして戦ってきたのだが、一発勝負に出て、これが裏目に出ると我慢するのが難しくなる。このゲームで、愚鈍だったのはウェールズの方だった。さっきも書いたが、まずディフェンス。前に出る低いタックルでアイルランドの出足を削ぐ。ダーシー=オドリスコルの両センターも、それまで見せていた「いぶし銀」のプレーを見せることができない。こんなにノックオンするオドリスコルは見たことがない。アイルランドの出来悪さよりもウェールズのディフェンスを誉めるべきだ。
 アイルランドにはいくつかの敗因があり、ウェールズにはいくつかの勝因がある。アイルランドは、プール戦で我慢を使い果たし、勝ち進むことで自らの力を過信したのかもしれない。対するウェールズは、若い選手が切れずにタックルに行き、アイルランドの老練な両センターを、ウェールズの若く馬力のある両センターが上回った。

フランス対イングランド 19-12

 前半でフランスの16-0。いつものように「本気を出す」とフランスは強い。プール戦の不出来が嘘のようだ。ボネール、デュソトワール、アリノルドキの第3列がディフェンスに走り回り、ヤシュヴィリ=パラのハーフ団が余裕を持ってゲームを作ることができる。パペ=ナレの両ロックも攻守に走り回る。いままでぼくが批判ばかりしてきたメルモーズ=ルージュリの両センターも、イングランドに劣らない。問題はヤシュヴィリのキックが決まらないこと。全部決まっていれば23-0ですでに勝負の趨勢は決まっていたのだが、PGを1本、コンヴァージョンを2本外し、イングランドにもチャンスを与えている。
 そして後半。前半はフランスにつき合って(あるいは、キックの不調を実感しているウィルコの選択か)ラインにボールを集めていたイングランドだが、後半は、いつもようにFW中心のゲームメイクに切り替えてきた。対するフランスの問題は、常にイングランドに対するときに目立つのだが、スクラムで優位に立てないことだ。第1列が組み負けているように見える。ニコラ・マスの3番の方はまだ安定しているが、ジャン=バティスト・プクスの1番がやられるケースが多い。リエヴルモンもプクスをバルセラに代える。そして満を持してトラン=デュックを出し、ヤシュヴィリ、アウト。つまり、パラ=トラン=デュックのハーフ団。どうもしっくり来ない。後半はFWが劣勢で、エリア・マネジメントもうまく行っていないのに、パラがやたら強気だ。タッチキックで十分なところをハイパント。この日、キックが好調だったトラン=デュックにパスすれば十分なところを、「俺が!俺が!」の悪い癖。ラグビーは、「俺が!俺が!」とは反対に、「ハイ、お前」の連続が点を線に変えていく。ジャック・フールーのように、FWをこき使えるSHが最近は出てこない。
 イングランドはウィルコが65分に退いた。彼の時代がそれとなく終わった感じがする。そして、イングランドがセミファイナルに残るには、今年のチームはFWが弱い。