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June 30, 2012

ユーロ2012──(5)セミファイナル イタリア対ドイツ 2-1
梅本洋一

[ sports ]

 イタリアの完勝! テレビでゲームを見ていると、「こいつダメじゃん!」と思える選手名を口にすると、次のゲームからそのダメ男くんが頑張り始める。それがこの日のバロテッリだ。確かに身体能力はすごいけど、ここでシュート!と思えばパスするし、ここはパスでしょう、と思えばシュートを外す奴だった。でも、カッサーノからのクロスをドンピシャで合わせ、モントリーヴォからの一発のパスをシュートに繋げるカウンターを炸裂した。やっぱり絶対のセンター・フォワードのいるチームは強い。
 キックオフ以前に、このゲームの趨勢を読もうとすればすれほど、ドイツ有利に思えた。中3日と中5日。そしてイタリアはイングランドと延長PK戦を戦ってきた。それに対してドイツはギリシャに完勝してセミファイナルにコマを進めている。さらに平均年齢の高いイタリアに比べてドイツのそれは25歳に満たない。どう考えてもドイツ有利だった。しかしフットボールは分からない。イタリアの足は最後まで止まらず、むしろ若いドイツの方が走れなくなってきていた。攻守の切り替え、ポジショニングの早さ、これらはどちらもイタリアだった。
 そして、前半にバロテッリが2発決めると、ドイツはすでにロングボールを放り込み始める。まるでゲーム終了まであと5分の一か八かの勝負になっているように。確かにケディラ、エジルの中盤は悪くないし、エジルは最後までこのイタリアに抵抗してきた。だが、自陣左サイドを空け、ボアテンクに走られても構わないが、ラームとポドルスキのサイドは徹底してプレスをかけるという省エネ、ディフェンスの前に、ドイツは同じアタックを繰り返すばかり。若さゆえか、「応用問題」が解けない。それに対して、イタリアには、どんな「応用問題」もいとも簡単に解き明かし、難しい幾何の問題に対しても有効な補助線をあっという間に引いてしまう男がひとりいた。ピルロだ。「困ったらピルロ」。これがイタリアの合い言葉だったかどうかは知らないが、困ったときには、必ず、後ろにピルロがいる。このゲームで唯一ブフォンが抜かれたときも、ゴールマウスの前にピルロがいた。もちろん、どんな問題でも簡単に解ける男ピルロは、ドイツの標的になる。だが、この標的をアタックしていくと簡単に倒れて、ファウルを与えてしまうか、アタックが来る直前に、もっとも有効な場所にバスが出されてしまう。オートマティスムとフィジカルの達成された男たちの中に、たったひとりだけ「伝統工芸」の国宝級の職人が混じっているという比喩は適切だろうか。そして重要なのは、この「伝統工芸」の職人が、このゲームでピッチに立っている男たちの中で、いちばん長い距離を走っていることだ。
 さてファイナルは、グループリーグでもっとも興味深いゲームの再戦になった。そして、今回は、ドローで終わりはしない。たとえ`PK戦になっても決着があるということだ。スペインはいろいろな「問題集」を終えて、結局、フェルナンド・トーレスにたどり着いているだろうし、たとえスタメンで来なくても、ゼロトップとワントップの併用でくるだろう。イタリアで唯一の心配は、「伝統工芸」の人間国宝の疲労だろう。