ユーロ2012──(6)ファイナル、スペイン対イタリア 4-0 梅本洋一
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イタリアは日程面で大きなハンディを負っていた。後半、3人目の交代で入ったモッタがハムストリングをやられると、10人でスペースを埋める力は残っていなかった。そして、おそらくスペインは、最良のゲームをやった。この状況を考えると、この結果も妥当だろう。
だが、それでも、今回のユーロでもっとも注目されたのは、チェーザレ・プランデッリのイタリアだったことは、この敗戦でも、揺るがない。このゲームでも、開始早々は、かつてのハンカチーフの上でのフットボールさながら、両チームのGKを除くほぼ全員がテレビのモニターのフレームに収まる範囲にひしめき合い、それでもデロッシ、ピルロが、イニエスタ、シルバがパスを繋ごうとした。スペースとパス交換に対する研ぎ澄まされた感性が噎せ返っていた。だが、スペインに一日の長があるとすれば、シャビ・アロンソのロングパス、ブスケツの繋ぎ。これはイタリアにはなかった。スペースとポジショニングを磨いた果てにやってくるのは、ポジション・チェンジのための長いパスと、徹底した「球拾い」。フットボールは、その意味で、この20年間まったく変わっていない。
だが、それでもスペインが勝った。おそらくイタリアに日程や怪我のハンディがなくても、ドローがいいところで、イタリアに勝利の匂いはしなかった。だから、グループ・リーグの同カードの第1戦が、このユーロのベストゲームだったという評価もまた変わらない。好調のスペインでも、そのチクタクを寸断し、ある程度の混乱を招くことに成功しても、そのスペインを上回って勝利を収める方法を手中にしているチームがまだ現れていない。
だが、今回のユーロでもの足りなかったことも多かった。上位8チームと下位8チームの差が大きかったこと。だからアップセットがまったくなかった。ということは、新たなスタイルのフットボールが生まれていないということだ。たとえば2004年のギリシャは、古典回帰だったのだが、2008年のスペインは、同時代でもっともアヴァンギャルドなナショナルチームだったことはまちがいないだろう。今大会のイタリアが評価されるといっても、それは対スペインという相対的にものだ。かつてアリゴ・サッキが見せたゾーンプレスや、2000年のフランスが見せた圧倒的な速度といった新たな発見が今回のユーロにはなかった。開催国のウクライナやポーランドは、その意味で、もの足りない。ドルトムントもストライカーやアンドレイ・シェフチェンコがいても、輝きはなかった。かつてディナモ・キエフが持っていた驚異的な速度や、ベルリンの壁崩壊以前のポーランドが持っていた個人技術とウィングの力は、グローバル化したフットボールを前にすると、過去の残像でしかない。
ユーロのような大会は見る分には、それなりに楽しいのだが、ナショナルチームという発想が、毎回時代遅れになっていくように感じられるのは、時差のある国でほとんど睡眠をとらないでゲームを見続けているぼくらにはちょっと辛い。誰の目に明らかなように、スペインがバルサのフットボールを下敷きに作られ、イタリアのそれがユベントスのそれの上に構築されている。とすれば、やはりチャンピオンズリーグの方がユーロよりも面白いのではないか。この大会期間という短期間にクラブチームに成長していくチームは発見できなかった。