オリンピックのフットボール 梅本洋一
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オリンピックの2つの代表チームは、「なでしこ」が銀、U-23が4位という成績だった。ランキングでは「なでしこ」が3位、U-23は、いったい何位なのだろう──おそらく4位を下回っているだろうから、両チームともランキング以上のリザルトを収めたことは、賞賛に値する。
だが、U-23が最初にスペインを破ったわりに、その後、エジプト戦を除いてファンタスティックなゲームはなかった。そして「なでしこ」はブラジル戦、フランス戦とラッキー以外の何ものでもない勝ち星を拾ってファイナルに残った。もちろん2日に1ゲームという、オリンピックの日程は信じがたい。フットボールは高校野球ではない。1週間に1ゲームという日程が自然なものだろう。「なでしこ」もU-23がピークを初戦に持っていった結果だろう。フットボールは開会式以前に始まっているが、グループリーグは全試合開会式前に終わっていてもいいだろう。セミファイナル以降がウェンブリーで行われるフットボールは素敵だ。ミレニアム・スタジアムは必要ないのではないか。ロンドンだったら、アーセナル・スタジアムでも、ホワイトハートレーンもあるのだから、全チームをロンドンに集めた方がイーヴン・コンディションになるだろう。
まず「なでしこ」。ほとんどバルサのようだ、とW杯では言われたパス回しが影を潜め、決勝トーナメントに入ってからは、ポゼッションでもシュート数でも後塵を拝したのは、明らかに相手チームに研究されたせいだ。このチームのダイナモであり、心臓部にあたる阪口と澤の2ボランチを徹底して潰され、そこからの有効なパスが減ったことと、右サイドのMFに入ったキャプテンの宮間がまったく機能しなかったこと。苦戦の原因は、この2つだろう。パスを回しながら攻めるという鋳型に、このチームがはまらなくなるとき、ミッドフィールドでも主導権を握られるわけだから、バックライン──とくに岩清水──に相当の負担がかかる。この最後の堤防が決壊しなければ、なんとかカウンターでゲームを拾えるし、ここが割られると、アメリカ戦のように負ける。もともと阪口はトップ下で、澤はアタッカーだったわけで、ボールをキープできる条件なら、この面子は当たっているが、そうでないとき──格下のチーム以外は防戦一方だった──は、並びを変えるべきなのだ。ボランチをフラットに3枚にして、大義見のワントップにするフォーメーションの変更を行えば、ある程度はボールをポゼッションできたのではないか。そのときは、いくらFKに力があっても、宮間を外すしかなかったろう。だが、佐々木則夫は、本当に頑固だった。相手に合わせてフォーメーションを変えられる柔軟性をこのチームが持てるようになれば、もっと懐の深いチームになれるのだが。
同じことは、U-23も言える。このチームの弱点は扇原と山口のセレッソ・コンビが入るボランチのところだ。誰でも分かる比喩を使えば、このチームに、決定的に欠けているピースは、「ガットゥーゾみたいな奴」だ。前からディフェンスに行って、パスコースを限定し、そこでボールを奪ってカウンターが、このチームの唯一のストラテジーだったが、この面子は専守防衛に向いていない。オーヴァーエイジの徳永や麻也まで含めて、全員がアタック好き。誰かひとり「ガットゥーゾ」にならないと、中盤が危うい。山口は誠実で扇原には才能を感じるが、「泥臭い」ボランチがいないと、だんだんきつくなってくるのは、どのゲームを見ていても明らかだった。3決を見ていると、ホン・ミョンボの韓国は本当にポジショニングがいい。ディフェンスの2ラインがいつも綺麗に並んでいる。そして、ボランチはふたりとも「ガットゥーゾ」だった。
言ってみれば、「なでしこ」もU-23も、チームとしてはまだまだナイーヴだ。もちろんセレクション・チームなので、チーム戦術を単純な部分に落とし込めば、短期間でチーム力は明瞭に上昇する。でも、6ゲームを、単純なひとつの戦術では戦えない。相手チームによって常に「応用問題」の解答を求められる。佐々木監督も、関塚監督も、育成型として優れているようだが、ここ一番の勝負師ではないようだ。相手によって、フォーメーションを使い分けることで、「応用問題」への解を提出してほしいものだ。
それにしても、男子の決勝、メキシコは惚れ惚れするようなチームだった。