『アウトロー』クリストファー・マッカリー高木佑介
[ cinema , theater ]
この映画によってトム・クルーズは現代のシャーロック・ホームズになった。と、見終わったあとにさまざまな手続きを省略して秘かに呟きたくなるような作品、それがこの『アウトロー』である。
元軍のエリート捜査官で今はアメリカ各地を放浪とする謎の人物ジャック・リーチャー(トム・クルーズ)が、数奇な縁あって無差別殺人事件の容疑者からの要請で捜査に乗り出し、(いろいろ問題はあったけれど)見事この壮大な陰謀事件を解決に導くというのがこの映画の物語なのだが、私のような凡庸な観客からしてみれば滅茶苦茶な捜査展開でも、トム・クルーズはすべてを見抜いているから全て良し、という製作サイドの開き直った態度がひしひしと伝わってくるようで、どうしてなかなかこの映画は嫌いになれないのである。実際、この映画のトム・クルーズは、偶然バーで男に絡まれれば「裏で糸を引いている輩がいる」ことを察知したり、自分の跡をつけてくる悪漢がいれば「警察に裏切り者がいる」ことを見抜いたりと、要するに『陰謀のセオリー』(97)のメル・ギブソン並みにパラノイアなのだ。でも、概して魅力ある探偵ものがそうであるように、主人公トム・クルーズのやることなすことのすべては正しい。その「主人公がすべてを見抜いている」から全部許されている感が拭いきれないあたりが、この映画のトム・クルーズを見てシャーロック・ホームズを想起させる所以であり、またそういった作品を映画として成立させてしまえるのが、トム・クルーズという不動のスターだけに許された特権だろう。『ユージュアル・サスペクツ』の脚本を手がけてもいる今作の監督クリストファー・マッカリーが、青年時代に探偵事務所に勤務していたという事実も、どこかこの映画のトム・クルーズとの共犯関係に花を添えるエピソードではないだろうか。
私からもパラノイアックな話をひとつ。この映画で頼もしくも軽妙な役どころを演じるロバート・デュヴァルがとにかく素晴らしく、これまたやることなすことのすべてが許されていた俳優ジョン・ウェインの傍らにいたウォルター・ブレナンのように見えてきてしまう。何故かこの『アウトロー』に出演している、誰も頼んでいないのに自分の凄惨な過去を語りたがるヴェルナー・ヘルツォークよりも、トマス・ピンチョンが『一九八四年』(ジョージ・オーウェル)に寄せた解説文で、ふとロバート・デュヴァルの名を挙げて「過去に多くのことを見過ぎてしまった人物」と言い表していたような、80過ぎの老人の持つ存在感が十分に発揮されているのだ。トム・クルーズとロバート・デュヴァルの共演は、おそらく『デイズ・オブ・サンダー』(90)以来のことだろう。ライフル銃を抱えながら軽口を掛け合うふたりのやり取りが、ジョン・ウェインとウォルター・ブレナンのふたりに見えてしまう一方で、どこか旧友同士がトニー・スコットの思い出話でもしているように見えてしまうのは私だけだろうか。
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