カンヌ国際映画祭2015リポート Vol.04 槻舘南菜子
[ cinema ]
5月15日
朝8時半からのプレス上映のために7時起床。前作『Alps』がかなり変わった作品で面白かったYorgos Lanthimos『The Lobster』からスタート。
近未来を舞台としたSFで、その世界では法律によって独身の男女は拘束され、あるホテルに送られる。そこで45日以内に相手を見つけられなければ、動物(ただし何になるかは選べる)に変えられ、森に放たれることになるという。そこから逃げ出した一人の男がこの規則に反してホテルから脱出したのにも関わらず、その森でも恋に落ちてしまうという筋書きだ。現代社会への批判するかなりブラックなコメディで、コリン・ファレル、レイチェル・ワイズとともにレア・セドゥら出演俳優はかなり豪華だが、前作に比べるとやはりすべてが中途半端な印象を受けた。
次は11時過ぎからの批評家週間部門でアルゼンチン映画『Paulina』(Santiago Mitre) 。主人公ポリーナが弁護士を止め、片田舎で教師をして仕事をすることを決めたと父親に説明するファーストシーンで引き込まれる。女優の眼差しが素晴らしく印象的で、彼女に降りかかる災難へのリアクションが決して共感を与えるものではなく、紋切り型に陥っていないのはいいのだが、その無理解への代償をこの作品が支払えているのかと言われれば、何とも言えない。
続いて、批評家週間の開幕作品『Les Anarchistes』。『アデル、ブルーは熱い色』で一躍時の人となったアデル・エグザルコプロスが主演している。舞台となるのは19世紀末のパリ、無政府主義者の活動を調査するために警察官がそこに潜り込むというコスチューム・プレイ。ありきたりの展開と、時代の重みの欠片もなく単にその時代に合わせた衣装で演じているだけのTVドラマレベルの出来にうんざりする。この作品が批評家週間の「開幕上映」作品というのはどうなんだろう......
まだ17時前だが、そのまま19時からのガス・ヴァン・サント『The Sea of Trees』。に並ぶ。朝からクロワッサンを食べたたけで、それから何も食べていない......。ロカルノ映画祭で知り合ったカナダ人の批評家アダム・クックと一緒に、彼の近況や見た作品の話を聞きながら2時間待つ。彼はジェームス・グレイと親しく、写真とともに、家に招待された時の手料理が最高に美味しかったことや、出版する予定の本の話、さらにフィリップ・ガレルの弟、ティエリー・ガレルと共同でプログラムしたドキュメンタリーのレトロスペクティブのことなども話してくれた。青色パスのプレスの入場はまたもや開映の5分前・トイレに行く時間などもちろんなく、席に到着した途端上映がはじまる。
ファーストシーン、ラストシーンの雲を映したガス・ヴァン・サント印と言えるショットや、主題として二人の男が途方もなく出口を探しどこまでも続く砂漠を彷徨い歩く『ジェリー』と通じる部分もあるが、並行して語られるエピソードがあまりにも陳腐で衝撃を受ける。間違いなくガス・ヴァン・サント史上最悪の作品だろう。彼の作品を見続けていた身からするとかなりショックだった。
上映後は7月にポーランド、ワルシャワで開催される国際映画祭ニューホライゾンでのフィリップ・ガレルのレトロスペクティヴに向けて、プログラムディレクターのジョアンナ・ラプスカと彼女に私を推薦したくれたカイエ・デュ・シネマのアリエルとともにミーティングを兼ねたディナーに出席する。理想のプログラムとして提案したつもりが、なんとすべての作品のブッキングをはじめていると聞く。ガレル本人とディスカッションして組んだプログラムは、「フィリップ・ガレルによるフィリップ・ガレル」というタイトルで、彼にとって重要な人々や出来事を軸にし、自伝的でありながら同時に弁証法的に見せることが狙いのものだったが、彼らの友人であるザンジバールのメンバーの作品も同時に上映できることにもなった。ロシア人批評家ボリス・ネレポ、映画監督、映画上映プログラマーでもあるギュスターヴ・ベック、Re;Voir映画祭のディレクターであるピップ・ショロドフといった友人たちもディナーに合流、結局アパートに戻ると午前2時を過ぎていた。明日も8時半からプレス上映がある、体力がもつのか心配だ。