『山〈モンテ〉』アミール・ナデリ則定彩香
[ cinema ]
アミール・ナデリ監督の最新作は全編イタリアで撮影された。前作『CUT』では主演の西島秀俊が物理的に殴られまくっていたが、今度の『山〈モンテ〉』ではアンドレア・サルトレッティが本作の主役である"山"を殴りまくっている。
物語は山の麓の村に住むアゴスティーノ一家がひとりの娘を亡くしたところから始まる。水は湧かず、土地はやせ、作物の育たないその山は"呪われた山"と呼ばれていた。その呪いから逃れるため村人たちは移住を決意するが、アゴスティーノと妻のニーノ、息子のジョバンニは先祖から受け継いだ土地を捨てることができなかった。霧に覆われた岩山はそびえ立ち、街に降りれば異端者扱いされる。一家には様々な災難が降りかかり、窮状は極まるばかり。やがてアゴスティーノは"山"そのものに立ち向かう。
この映画のテーマのひとつは宗教である。中世イタリアの人々が日常的に神に祈っている様子が終始描かれる。しかしそのなかでアゴスティーノは、極限状態にして自らの運命を神に祈ることはしない。呪いの象徴としての不穏な霧に包まれた山と、それに真っ向から対峙する彼の野生的な力強さがこの映画を支配している。そしてそれを中世宗教画のような寒々とした画面がとらえ、さらに終始耳に飛び込んでくる岩山に吹く不穏な風の音、野獣の鳴き声、作品終盤で鳴り響く岩を殴る金槌の音が、山とアゴスティーノの間の緊張を最大限にまで高めている。
ヴェネチア映画祭でナデリ監督に「監督・ばんざい!賞」が授与されたことは、わたしには当然のことのように思える。人間の限界に迫るというテーマを引き継ぎながらもここまで進化した彼のことを、もろ手を挙げて賞賛したい。