『彼女のいた日々』アレックス・ロス・ペリー
渡辺進也
[ cinema ]
これだけ配信サイトがあると、いつ、どこのサイトでどの作品が配信が行われているのかが全くわからないでいる。以前みたいにDVDスルーだったらTSUTAYAの新作コーナーに行けばそこで追うことができていたけれど、それが配信になってしまうと、新しくリリースされていてもまあ気がつかない。僕の場合、ずっとみたいと思っていてみれない監督のひとりにアレックス・ロス・ペリーというアメリカの監督がいて、海外版のソフトを買わないと見れないかと思っていた最近になってやっと『彼女のいた日々』Golden Exitsが各種サイトにて配信されていることを知った。
ニューヨークで遺産整理をするアダム・ホロヴイッツ演じる中年の男の元に、エミリー・ブラウニング演じる若い女性が仕事のアシスタントとしてやってくることから映画は始まる。この女性の存在が、微妙な均衡を保っているアダム・ホロヴイッツとクロエ・セヴイニー演じる夫婦やジェイソン・シュワルツマンとアナリー・ティプトン演じるスタジオを経営する夫婦にさざ波を起こす。クロエ・セヴイニーは夫の不倫を疑い、メアリー=ルイズ・パーカー演じるその姉は妹夫婦をこき下ろし、アナリー・ティプトンもまた夫の不倫を疑い、さらに彼女はメアリー=ルイズ・パーカーの秘書であるリー・レイブ演じる姉に酒場に呼び出されては愚痴ばかりを聞いている。
この映画では、愚痴や不安の吐露でしかないその会話と彼らの鬱屈したその表情ばかりが溢れている。女性好きのおじさんは当然のようにひとり暮らしの女性の家に訪れて拒絶されるし、若い女性のガンガンくるアピールにちょっと引きながらも気になって仕方がない。わがままな上司のもとで働けば不満や愚痴を抱えても仕方がない。誰もが抱いている不安や不満やあるいは欲望はあることが当然そこにあるのだというように、自然と噴出している。
ところどころに挿入されるニューヨークの街路樹や地下鉄がとてもいい。それをみていると長い間ずっと変わらずその場所はあり続けたのだという感じがする。冒頭、エミリー・ブラウニングは「New York groove」を口ずさむ。そのときのgrooveの発音がちょっとかわいい。口ずさむ通り、彼女が実際にニューヨークに戻ってきたのかどうかはわからないけど、そのことはたぶん大したことじゃない。ニューヨーク、いやどんな街にも不満や不安や欲望は普通に溢れていて、それはいつの時代だって変わらずそこにある。だから、その内容は鬱屈としているのに、みていて嫌な気持ちにならないのである。
『彼女のいた日々』の各種配信サイトはこちら。