《第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『8月のエバ』ホナス・トルエバ
渡辺進也
[ cinema ]
バカンス中のマドリード。エバはこの時期に街にとどまることを決め、バカンスに出かける知人から部屋を借りる。一通り、部屋の説明を受けた後、部屋の貸主は、ライター業をしているのだろうか。おもむろに最近書いた記事の話をする。「この前、スタンリー・カヴェルの追悼記事を書いたよ。スタンリー・カヴェルを知っているかい。1930年代のハリウッドのコメディ映画についての本を書いた人だ。その本のタイトルは『幸福の追求』って言うんだよ。」
別れの危機を迎えたカップルが、ある出来事をきっかけに、再び愛し合う。そうした再婚の喜劇を扱っているのが『幸福の追求』。そこから後にアルノー・デプレシャンが、90年代ハリウッドのディザスター映画を例に、まだその伝統があり続けると講演したのを聞いたのも、この映画をみたアンスティチュ・フランセのエスパス・イマージュだったことを思い出す。登場人物たちが持つ「セカンド・チャンス」。デプレシャンから聞いたその言葉は、今も僕にとってとても好きな言葉だ。
エバは街の中を歩き回りながら、いろんな人と出会っていく。バスを降りてゆく人につられて入った博物館で昔の旧友に会い、街中でパフォーマンスをする人に会い、声をかけられた男二人組とバーで酒を飲み、アパートを締め出されたために疎遠となった友人に助けてもらい、映画館の前後となった人と仲良くなり、橋の上で佇む人と出会う。
この映画では、そうして偶然出会った人々とは時を経たずして再び出会うことになる。最初に会ったときにちょっとした印象を残してくれた人たちは、もう一度姿を見せてくれて、また違う魅力を知るようになる。昔からの友人のように自分たちの人生を語り合い、気まずく別れた友人ともまるで何事もなかったように川遊びをし、一緒に酒を酌み交わす。そこで、また人と出会い、そして彼らとは再び出会い......。
『8月のエバ』を再会の喜劇と呼んでみたくなる。ただ会って、話して、時間を過ごすことがより濃密な時間を作っていく。最初の出会いはまだよそよそしく、二度目の出会いはとても親しみに溢れている。何度も会うことで、共に時間を過ごすことで、そのとき起こるそのちょっとした距離感や関係性の変化を見るのは楽しいし、なんともうらやましい。「セカンド・チャンス」はどこにでもある。再び会った人とはまたこれからまた何度も会うことになるんだろうし、結局この映画の中では一度しか会うことのない人ともどこかでまた会うことがあるかもしれないし、それから何度も会うことにもなるんだろう。
3/5〜4/18 「第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって」@アンスティチュ・フランセ東京
『8月のエバ』は4月2日(金)18:45にて2回目の上映を予定しております