March 24, 2021
愛媛県の内子町に内子座という芝居小屋がある。僕は文楽への興味から知っていた。例えば、文楽を題材にとった三浦しをんの小説『仏果を得ず』の中で、内子座は次のように紹介されている。 「大正時代に建てられた内子座は、今も現役の劇場として活躍中だ。櫓があり、床も天井もすべて板張りの古い建物は、町の人々に大切にされている。(......)入口にはためく色とりどりの幟。靴を脱いで建物に上がる構造。みしみしと音...
全文を読む ≫
街がモノクロで映し出され、地方から進学のためにやってきた男性が、通りの向こうでバスを待つ若い女性に声をかける、ひとつの美しい「愛の誕生」から始まる物語。しかしこの青年リュックは、ここでジェミラという女性を残して田舎に戻ると、幼なじみの恋人ジュヌヴィエーヴと再会し、彼にまっすぐな愛情を向けるジェミラを反故にして、ジュヌヴィエーヴを選ぶことになる。しかしそれもつかのま、自分との間にできた子供を妊娠し...
全文を読む ≫
March 21, 2021
本インタビューを読むことで、フィリップ・ガレルがいかに3人の若い俳優たちと誠実に向き合い、彼女たちとともに映画を撮ってきたかが伝わってくるだろう。特に脚本段階では、俳優たちとのコミュニケーションから、細部を柔軟に変えていることが、スエリア・ヤクーブとルイーズ・シュヴィヨットの言葉から伺える。シュヴィヨットの述べた「遭遇するふたつの『若さ』についての映画」という言葉は重要である。 また、彼女たち3...
全文を読む ≫
バカンス中のマドリード。エバはこの時期に街にとどまることを決め、バカンスに出かける知人から部屋を借りる。一通り、部屋の説明を受けた後、部屋の貸主は、ライター業をしているのだろうか。おもむろに最近書いた記事の話をする。「この前、スタンリー・カヴェルの追悼記事を書いたよ。スタンリー・カヴェルを知っているかい。1930年代のハリウッドのコメディ映画についての本を書いた人だ。その本のタイトルは『幸福の追求...
全文を読む ≫
March 17, 2021
第一部の華子(門脇麦)が乗ったタクシーから見える東京と、第二部の美紀(水原希子)が乗った弟の車から見える富山。ともに元旦の日、佐々木靖之のキャメラは横移動を通じて、2016年を迎えた無人の都会と2017年を迎えたシャッター街の田舎を対照的に映し出す。場所や時間さえも異なる場所。しかし、それぞれの光景に対するふたりの視線の矛先は、どこか同じような気がしてならない。 東京の松濤で生まれ育った良家の...
全文を読む ≫
『二重のまち/交代地のうたを編む』は、見る者に戸惑いと驚きをもたらす素晴らしい作品だと思う。この作品がもたらす戸惑いと驚きについて、3点ほど書いてみたい。 まず1点目として、『二重のまち/交代地のうたを編む』は、その複数的なあり方によって、作品に触れる者を戸惑わす。2020年の恵比寿映像祭では、映像作品として『二重のまち/交代地のうたを編む』が上映されるほか、インスタレーション作品として展示さ...
全文を読む ≫
March 12, 2021
ルーべの警察署を記録したドキュメンタリーをもとに作られたこの映画では、登場人物のほとんどが実際に街に住む人たちからなり、主要人物である新米刑事のルイ(アントワーヌ・レナルツ)と警察署長のダウード(ロシュディ・ゼム)、そして彼らの調査対象となるクロード(レア・セドゥ)とマリー(サラ・フォレスティエ)というカップルの4人だけを職業俳優が演じている。主人公であるダウードは、家族を持たず、昼夜仕事に徹し...
全文を読む ≫
March 2, 2021
つくり手たちは四人の登場人物ーー彼らはまちの外からやってきて、まちの人に話を聞き、まちについて書かれたテキストを朗読するーーを「旅人たち」と呼ぶ。バスに揺られる若い女性の姿に、彼女の声のナレーションがすうっと被さるとき、それを見る観客たちもまたこの「まち」に漂い着いたひとりの旅人になる。 このまちには、地面の下にもうひとつのまちがあるらしい。このまちの少し遠い未来を描いた物語があるらしい。旅人...
全文を読む ≫