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May 20, 2022

第75回カンヌ国際映画祭報告(2)スペインの新星、エレナ・ロペス・リエラ監督インタビュー
槻舘南菜子

[ cinema , interview ]

2015年、カンヌ国際映画祭監督週間にノミネートされた短編『Pueblo』から七年を経て、エレナ・ロペス・リエラ監督、初長編『El Agua (The Water) 』が同部門でとうとうお披露目される。思春期の少女は、自然との強い関係性のもと謎と欲望を抱えながら、社会の重圧に立ち向かい、自由と独立を求め、若い「女性」へと変貌していく。これまでに監督した短編『Los que desean (The Entrails) 』(2016)はロカルノ映画祭国際短編部門にノミネート、『Las Visceras (Those Who Lost) 』(2018) は国内短編部門にてグランプリを獲得し、着実に初長編に向かうキャリアを重ねてきた。初長編の最も大きな魅力とは、監督がその作品を撮る必然性であり、創造への欲望だろう。その原動力は度々、個人的、自伝的なものだ。だが、近年のヨーロッパの映画製作のシステムがその欲望を抑制し、映画監督自身が作品に存在することが困難になっている現在、『El Agua』は、今年のカンヌで最も美しい初長編であるはずだ。


Innondation.jpgーーあなたの作品は、場所、土地との強い関係があり、土着的なものを感じます。この地域との関係を話して頂けますか。

エレナ・ロペス・リエラ(以下、ELR) これまで、自分が育った街でドキュメンタリーとフィクションを混在させた三本の短編(『Pueblo』『Los que desean』『Las Visceras』)を撮影しました。初長編『El Agua』は、この地域の伝統、土地柄、社会的な構造に関する考察であり、短編作品の延長線上にある作品だと思います。この場所とここで受けた教育が私に強い影響を与えていることは確かです。もちろん、性別や社会的な階級などの問題からくる抑圧的な部分もあります。しかし、そこで生きる人々は、寛大で、個人的であり、場所に根付いた多くの物語を語ってくれました。この地域では、常に現実とファンタジーが混じり合っているんです。彼らの世界の見方が、他の方法で現実を語る、映画を作る欲望を与えてくれたと思います。母国を離れて20年以上になりますが、決して忘れることはありません。自身のプロジェクトはもちろんですが、友人や家族に会うために、定期的にこの場所を訪れています。この場所からほぼ離れて暮らす複雑な関係性は、作品を構想する上で非常に重要な側面の一つです。

ーーこれまでの短編作品群には、初長編に繋がるある種の発展が見えます。初長編のアイディアはいつ、どのように誕生したのでしょうか。

ELR 殆どの短編にはシナリオはありませんでした。ですが、企画を動かすために書いたメモのようなものがありました。私はとくに何も決めず、直感的、本能的に撮影し、その後に編集で構成していくスタイルをとっていました。そのため『El Agua』の物語を立ち上げるには、かなり長い時間が必要でした。作品のインスピレーションは、定期的に川が氾濫する地域に根付いた古い神話から来ています。水と死の関係が明白に存在している。伝承の重みと共に、新しい世代との関係を探求したいと考えました。方向性を決めた後、共同脚本家フィリップ・アズーリと共にフィクションの要素とドキュメンタリーを混在させながら、作業を進めました。

Ana fin.jpgーー映画に初出演した、主人公アナを演じるLuna Pamiésですが、彼女はまさに映画的と言える、顔、振る舞い、眼差しを持った素晴らしい女優です。どのように出会ったのでしょうか。

ELR 現地の路上で一年半に渡る長い期間をキャスティングに費やしましたが、彼女が目の前に現れた瞬間、はっきりと像が浮かびました。私にとって登場人物たちは、村の若者が演じることが重要で、この作品の多くは彼女に懸かっていました。また、企画を通して出会った若者のグループと共に、長い時間を過ごしました。彼らとの間にある種の親密な関係を構築する作業だったと思います。それは、脚本に関わる台詞に限ったことではなく、彼らと本物の人間的な関係を結ぶことでした。

ーー主人公はアナ一人ではありません。彼女とともに、母親、祖母、3世代に渡る女性が登場します。土地に縛られ、離れられずに生きている女性たちを巡る物語です。洪水を契機に、アナはこの場所から離れることを決めます。

ELR そうですね。3世代の女性が登場することは重要でした。私の大きな関心の一つは継承という問題だからです。私たちは肩に、祖先から伝わる多くのものを抱えながら生きています。この継承の問題は、それを伝達する者、それを受け入れる者、両者にとって、あらゆる点で複雑です。とくに女性にとって、言葉にならない多くの恐怖が存在すると思います。長い歴史を経て作られた女性の社会的な立場を見れば、明白でしょう。私は、偽りの運命の重圧、その重荷を背負いながら、しかし、同時にそれを書き換えようとする若い女性の肖像を介して、継承への問いを立てたいと考えたんです。

ーー次回作について教えて頂けますか。

ELR 幾つかのアイディアはあるんですが、まだまだ初期の段階ではあります。おそらく、亡霊を巡る物語になるはずです。


02491-ELAGUA©LAIALLUCH-WEB.jpegエレナ・ロペス・リエラ Elena López Riera
1982年、スペイン生まれ。現代アルゼンチン映画に関する博士論文を執筆後、ジュネーブ大学などで比較文学を教える。仏ベルフォール国際映画祭、スペイン、セビーリャヨーロッパ映画祭、スイス、ニヨンの国際映画祭「Vision du réel」などで選考委員も務めた。『Las Visceras (Those Who Lost) 』(2018)は、ロカルノ国際映画祭にてグランプリを獲得し、「European Film Awards」にノミネートされた。初長編『El Agua』は公式部門シネフォンダシオンの製作援助を受けている。

Ana Agua.jpg『El Agua』シノプシス
夏、スペイン南東の小さな村では、村を貫くほどの嵐がふたたび起こり、川が氾濫しないかと恐れられている。地元の古い迷信によれば、ある種の女性は「水」としての運命にあるため、洪水が起こるたびに姿を消してしまうという。若者のグループは夏の倦怠を乗り切ろうと、煙を燻らせ、踊り、お互いに欲望し合う。なかでもアナとジョセは、ともに愛し合っていた。嵐がやってくる前までは......。