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April 30, 2022

『オルメイヤーの阿房宮』シャンタル・アケルマン

[ cinema ]

 黒い夜の川の水面に、どこか向こうから来る光が反射して、波紋だけが白く浮かび上がる。それは動く船の後方に過ぎ去っていく水面のようにも見えるし、光源である船が到着するのを桟橋で待っているようにも見える。  カメラはひとりの男の歩みを追いかけ、場末のクラブのような場所へと入っていき、ステージ上を見つめる男の顔をじっと映し出す。ステージでは、別の男が「Sway」を踊りながら歌っている。そこに先程の男が彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:57 PM

April 24, 2022

『カモン カモン』マイク・ミルズ

[ cinema ]

 私が思春期を過ごしているとき、家の中には閉ざされた部屋があった。鬱病の父がそこで寝ていて、気軽に部屋に入れるような雰囲気ではなかった。父の病は次第に悪化し、自宅から遠く離れた病院に入院することになった。閉ざされていた部屋は空になり、休日には母と一緒に電車に乗り面会に行った。病院の談話スペースに設けられた卓球台で父と卓球をしたことを覚えている。私が物心つくころから父は鬱病を患っており、そんな彼が私...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:08 AM

April 20, 2022

監督・青山真治 追悼特集 第二回

[ cinema ]

青山真治は以後にやってきたのだ。フォード以後に、アントニオーニ以後に、レネ以後に、モンテ・ヘルマン以後に、ヴェンダース以後に、そして北野武以後に青山真治はやってきたのだ。彼が生み出しているのは、ポスト・シネマというよりはむしろ、今日、われわれのなじみになってしまったマニエリズムやポスト・マニエリズムの枠の外部にあるすべてのパーツを含んだ「以後」の映画なのである。彼は、すでに倒れたもの、飲み込まれた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:04 PM

April 11, 2022

『愛なのに』城定秀夫

[ cinema ]

 古書店のレジカウンターに腰掛け、くつろいだ表情でハードカバーに視線を落とす店主の多田浩司(瀬戸康史)を、斜めからウエストアップで捉えたファーストカットは、フレーム右方に不自然なスペースが空いている。程なくして、スペースを埋めるように女子高生・岬(河合優実)がフレームインし、画面が切り替わると、多田に熱い視線を向ける岬の表情が鮮明に浮かび上がる。背景にはショートカットの女性の肖像画がさりげなく配置...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:10 AM

April 8, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『柳川』チャン・リュル

[ cinema ]

 『柳川』は冒頭からスペクタクルに富んでいる。カメラは上から下へくぐるように動き、喫煙所で止まると、煙をくゆらせる老女を捉える。そこへ本作の主役の一人であるドン(チャン・ルーイー)が姿を見せ、自身の深刻な病状について、言葉少なに彼女に打ち明ける。しかし初対面の老女は気にも留めない様子だ。それよりも、彼が煙草を持っているにもかかわらず火を借りたことが訝しい。よく作風の相似で引き合いに出されるが、もし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:48 PM

April 3, 2022

監督・青山真治 追悼特集 第一回

[ cinema ]

3月21日に亡くなられた青山真治監督に哀悼の意をこめて、青山監督とNobodyの過去20年近くに渡る歴史を、寄せられた追悼文とともに全4回に渡って振り返ります。 教えてくれた人  知らせを受けたばかりで、こうして書いています。青山真治の訃報。彼は私たちの世代でもっとも生き生きした監督でした。 もう何年も前のある夜のこと、東京で『ユリイカ』と『エスター・カーン めざめの時』が併映され、それを見終えた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:22 AM

April 2, 2022

『ポゼッサー』ブランドン・クローネンバーグ

[ cinema ]

 映画は、ある女性の地肌の見える後頭部のショットで始まり、続くショットではコードに繋がれた針が突き刺さるその頭皮が超クロースアップで痛々しくとらえられる。皮膚に対する強い執着が伝わってくる。「私」の外部と内部とを隔てる皮膚は、ふつう、固有の「私」と分かちがたく結びついているはずだ。ところがこの映画では、(たとえ比喩的なイメージだったとしても)「私」から剥離していく皮膚の居心地の悪さばかりが際立つ。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:51 PM

April 1, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『あなたの顔の前で』ホン・サンス

[ cinema ]

 もはや「韓国」というより「世界の」という枕詞で語るべきホン・サンスのプロリフィックな作品群の中で、近年目を引くのが死の匂いを感じさせるフィルムたちだ。老詩人がとあるホテルを死に場所として選び、人生を終えるまでのモノクロの記録『川沿いのホテル』(2018)は言うに及ばず、『あなた自身とあなたのこと』(2016)では主人公の画家が死の床にある自身の母親についてつぶやき(2015年に実母を亡くしている...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:34 PM