July 31, 2022
冒頭、ロングショットで映し出されたチャールストンの街とともに、ナレーションは、この地が南北戦争の火蓋が切られた場所であり、現在は観光地として多くの観光客で賑わっていることを語る。カメラは、橋や船、馬車やそれを曳く馬、サムター要塞の記念碑や銅像、砲台跡などを映しだすのだが、そこに集う観光客の身体や顔、その表情は、暗くつぶれて判然としない。こうした一連のショット、観光地においてあらゆるものごとを消費...
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July 30, 2022
(......ひよめき【顋門】 幼児の頭蓋骨がまだ完全に縫合し終らない時、呼吸のたびに動いて見える前頭及び後頭の一部) 『ついのすみか』は早稲田大学シネマ研究会に所属していた井川耕一郎氏が1986年に制作し公開した8ミリフィルム映画。同年に(おそらくこれに先立って)『せなせなな』という作品もつくられている。 なかなか上映の機会がないが、2021年11月に亡くなった井川氏の追悼上映会が20...
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谷口家の洗面所の照明は、はじめに切れかかっていることを示唆されてから、少なくとも2ヶ月から3ヶ月くらいはそのまま放置されている。やがて劇中に初めて洗面所が登場するとき、点滅する蛍光灯の激しい光と闇との交換運動が暴力的なまでに観客の視界を襲う。「なんでこうなるまで気づかなかったの」、夫をなじる妻の声は、もはや冷め切った夫婦関係を隠喩として示唆するにとどまらず、もっと根源的な人の生死に関わること、...
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『せなせなな』は早稲田大学シネマ研究会に所属していた井川耕一郎が1986年に制作し公開した8ミリフィルム映画。同年に『ついのすみか』という作品もつくられている。 『せなせなな』は長さ65分ほど。明確なストーリー、わかりやすい起承転結はなく、密室か、屋外であっても他者や広がりを持たないいわば「密室化した荒野」という空間での男女の身体的からみと感情の交錯を描く。 この「からみ」とはいわゆるポルノ...
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July 23, 2022
警官の中にもシングルアクションのリボルバーの愛好者とオートマチックの方がいいと言う者がいて、ルガー好きにもレッドホーク派とブラックホーク派がいる。同じように留置所は酔っ払いとそうじゃないやつ用に分けられていて、そこには結果的に詐欺師と殺し屋がいて、殺し屋にもプロフェッショナルとサイコパスがいる。言わずもがな、そのどちらがいいとかどちらが悪いとかなんて話には全然ならない。汚職警官も連邦レベルの陰謀...
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July 16, 2022
私が要約を拒むのには、また別の理由がある。要約というものは、付随的な筋や結果の出ない筋を犠牲にして、決定的な筋を出現させるものだからである。ところが私の主題は、取るに足らない筋の継起のなかに、重要な筋を組み入れるにはどうすればよいか、ということなのだ。つまり、映画的な作劇に特有の図式的な短縮をすることなく、出来事の普通の流れを描くことが、ここでの主題である。 *1(ジャン・ユスターシュ) も...
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July 14, 2022
テムズ川に架かる二つの橋を写した二枚の静止画がスクリーンを分割し左右に分かれていくと、暗闇に佇むひとりの女がいる。その女が愛人との馴れ初め話をカメラに向かって語り始める時、彼女の周囲には明かりのついた鏡があるだけで、その場所がロンドンのどこであるかは明示されない。鏡に取り付けられた幾つもの電球とデスク上に散らかったメイク道具だけが辛うじてその場所を楽屋なのではないかと思わせてくれる。しかし女の話...
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July 9, 2022
恋人に振られたの よくある話じゃないか 世の中かわっているんだよ 人の心もかわるのさ...... 日吉ミミ「男と女のお話」(1970年 作詞 久仁京介 作曲 水島正和) 郷鍈治の肉体美がスクリーンを圧する!セックス、セックス、金、セックス!だがそこに叙情。夜の最前線、すなわちこれが当時の日活映画の最前線! ......ぶっちゃけ、ニューシネマ代表作『真夜中のカーボーイ』(69年 監督ジ...
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――何か、小粋でシャープな旧作邦画を観たいと思って、1962年の日活映画『機動捜査班 東京午前零時』というやつを観たんだが、こりゃあ当たりだったね! ――レトロかつ勇ましいタイトルじゃないか。そいつはどういうんだい。 ――うん、この『機動捜査班』は、1961年から1963年までのあいだに13作がつくられたシリーズで、覆面パトカー、無線連絡、科学捜査などを紹介した知る人ぞ知る警察ものの連作映画...
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July 8, 2022
「全部2回言うね」 「全部2回なんて言わない。全部2回言うってなによ」 ゲイリー(クーパー・ホフマン)とアラナ(アラナ・ハイム)が初めて出会うシーンで交わされるそんな会話を、ニーナ・シモンの歌声と波間に揺れるような横移動の心地よさで、なんとなく聞き流してしまう。だが映画を見ている間もこの会話はずっとどこかに引っかかっていて、なぜなら彼女はこの後、このシーンほどの頻度で「全部2回言う」ことはない...
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