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December 31, 2022
『あのこと』オドレイ・ディワン
『あのこと』は1960年代、中絶が違法であったフランスにおいて意図せぬ妊娠をしてしまった大学生アンヌの物語である。労働者階級の生まれながら、その優秀さで教師からも一目置かれるアンヌ。学位取得を目指す彼女にとって学業を諦めての出産など考えられなかった。 なぜタイトルが『あのこと』なのか。それは、当時、中絶が固く禁じられ、「中絶」という言葉自体も、口に出すのも恐ろしいほど忌避されるものであったから...
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投稿者 nobodymag : 12:22 AM
December 30, 2022
『ケイコ 目を澄ませて』三宅唱
私たちの街の映画、という存在がある。私たちの、というからにはこれは共同性を問題にしている。 ケイコにとって、ようやく辿り着いた家(戦火を経た街に誕生したボクシングジム)が、なくなる。 劇中、おそらく荒川と思われる大きな川と、荒川と交差する鉄道や高速道路が執拗に画面に切り取られ、眼前に現れる。 これは東京の物語なのだろうか? そうではないだろう。東京タワーやスカイツリーなど東京らしさを表象するアイ...
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投稿者 nobodymag : 12:37 PM
December 29, 2022
『浦安魚市場のこと』歌川達人
マグロ「血ぃ気にしないで、おいしいから」、タコ「みんな頭嫌がるけど、柔らかくておいしい」、シャケ「魚屋は切り身で決まる」、マグロの皮「千切りにしてポン酢にタバスコいれてアサツキをかけるとうまい」、トリ貝「これは小さいから開かなくていい、だからうまみが逃げない」、サメ「加熱すると本当にうまいから、ソテーとかフライとか」。なんてことを言われれば誰でも「今晩はお魚にしようかしら」となるのだが、そんない...
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投稿者 nobodymag : 6:21 PM
December 27, 2022
『柳川』チャン・リュル監督インタビュー
2014年に製作された『慶州 ヒョンとユニ』(日本公開は2019年)を除き、チャン・リュルのフィルムは国内の映画祭や一部の上映機会を通じた紹介に留まっていた。だが、短編から長編、あるいはドキュメンタリーに至るまで、2000年代初頭からコンスタントに新作を発表している映画作家であり、中国朝鮮族3世というバイカルチュラルな出自のもと、中国や韓国、また最近では日本を舞台に、各々のロケーションをタイトルに...
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投稿者 nobodymag : 1:49 PM
December 24, 2022
『メルヴィンとハワード』ジョナサン・デミ
メルヴィン「と」ハワード。そんなふうに結びつけられるふたつの名は、片方は世界に名を轟かす大富豪を、もう片方はそんな大物の名とつがいにされることがなければ誰の気も引くことのないような凡庸な人間を指している。でもこの映画のこのタイトルは、そんな極端な対照性によって成り立つというよりも、ふたりの名を結びつける「と」の力が極めて弱いことによって成り立っているのだと思う。実際、このタイトル通りのふたつの名...
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投稿者 nobodymag : 8:01 PM
December 19, 2022
FIFAワールドカップ2022 アルゼンチン対フランス 3−3(PK4-2)
4年間でサッカーはそれなりに変わったはずだ。けれど、ワールドカップを見ているとサッカーは4年前のままだとも思わされる。たとえばゴールキック。前大会まで、ボールを受ける選手はペナルティエリア内に入ることができず、ゴールキックは前線へのロングフィードほぼ一択だったが、2019年あたりから、ルールが改定されペナルティエリア内に複数の選手が入れるようになり、そこからショートパスを繋ぐのが基本となった。ゴ...
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投稿者 nobodymag : 4:06 AM
December 16, 2022
『RRR』S・S・ラージャマウリ
美しい森に暮らす純朴な民。異人種の暴君に母親を虐殺されたうえ攫われる幼い娘。嘆く村人たち──。観客がこれまでにも数え切れないほど目にしたであろう物語の光景の、いっそう誇張されたようなバリエーションによってこの映画は始まる。事実、インド独立運動の闘士となるべき男たちの大英帝国との戦いを見せる本作はスーパーヒーローものと呼ばれるジャンルのクリシェに満ちていて、その思わず笑ってしまうような極端さはヒ...
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投稿者 nobodymag : 10:57 AM
December 13, 2022
『やまぶき』山﨑樹一郎
群像劇というほどには、明確な主人公がいないわけではない。でも群像劇と呼びたくなるほどに、フレームの中に映り込んだ人たちがしっかりとそこに根を張っていると思える瞬間がある。一例を挙げるなら、和田光沙演じる美南が松浦祐也演じる元夫と話す場面。松浦が東北のイントネーションで語り始めた瞬間、映画の序盤で「私はもう帰れない」と呟いた美南の、「帰るべき方角」はそっちなのだとわかる。ただそれだけのことで、彼女...
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投稿者 nobodymag : 3:17 PM
December 11, 2022
【再掲】吉田喜重ロングインタビュー
12月8日吉田喜重監督が逝去されました。哀悼の意をこめて、2006年、多くの観客が吉田喜重を再発見した年に行われたロングインタビューの一部を公開します。 2004年秋、そして2006年冬。2度にわたって吉田喜重のレトロスペクティヴが大々的に催された。会場のポレポレ東中野は連日活況に沸き、興奮した観客の身体から多くの熱量が放たれていた。往年のファンから、学校帰りとおぼしき学生服の高校生までもが駆けつ...
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投稿者 nobodymag : 11:15 PM
December 10, 2022
『セールスマン』アルバート&デヴィッド・メイズルス、シャーロット・ズワーリン
「みなさんは人生で今がもっとも尊いはずです。なぜなら今のみなさんは、お客様に幸福を届けているのだから」 大勢の販売員たちが集う研修会の壇上で、メルボルン・フェルトマン博士と紹介される男は語る。博士の熱意とは対照的に、無表情、あるいは煙草を吹かしながらこの講演を眺めている販売員たちは、家族のもとを離れ、列車や車でアメリカ各地を巡回しながら高価な聖書の訪問セールスをおこなっているものたちなのだが、...
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投稿者 nobodymag : 10:59 AM
FIFAワールドカップ2022 クロアチア対ブラジル 1−1(PK4-2)
華やかで、ピッチ外での問題がないわけではないネイマールは、でもピッチ内ではとてつもなく気の利く選手だ。ブラジルは左サイドバックのダニーロが中に絞り、初期配置では中盤の底であったカゼミーロの横、あるいはカゼミーロを少し前に出して、ダニーロが代わりにアンカーの位置に可変する。ダニーロのポジショニングが、さほど上手くないことが気になるが、この形自体はプレミアリーグのトップを走る2チーム、アーセナル、マ...
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投稿者 nobodymag : 3:18 AM
December 9, 2022
《第4回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》「異邦人であること」ジャン=マルク・ラランヌによるデルフィーヌ・セリッグについての講演 後編
想像力と蜂起する欲望 ここで意味深いと思われるある問題を検討していきたいと思います。それは、出演した映画の中でどのようにデルフィーヌ・セリッグがしばしば暴力的な仕方で死ぬかということです。この問題に注目すると、あらゆる女優たちがフィクションにおける死の前では平等ではないということがわかります。たとえばカトリーヌ・ドヌーヴのような女優は映画でほとんど死を演じていません。彼女が死ぬシーンは120本近...
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投稿者 nobodymag : 12:47 AM
December 7, 2022
『はだかのゆめ』甫木元空
これはジャンルを問わず映画一般に言えることだと思うが、映画に出てくる人物たちは、生々しい存在感を露わにして見る者を圧倒するかと思えば、ふと気がついた時には希薄な存在感を漂わせていて見る者を心もとない気持ちにさせる。だから、映画の登場人物たちには、どこか亡霊的なところがある。「生きているものが死んでいて、死んでいるものが生きているような」と述べる者がいるように、『はだかのゆめ』に登場する人物たちも...
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投稿者 nobodymag : 7:52 PM
FIFAワールドカップ2022 日本対クロアチア 1−1(PK1-3)
エンバペが活躍できるのは、アンカーのチュアメニと左インサイドハーフのラビオが高低のバランスをうまく取り、彼への道を作っているからだし、なにより今大会はジルーが素晴らしい。36歳とヴェテランになり、もともと高くはなかった敏捷性がさらに落ちたものの、しかしいつどこに立てばいいかをほとんど間違うことがなく、気の利き方が異次元だ。エンバペやデンベレがスピードを上げた状態でボールを受けられるのはジルーのお...
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投稿者 nobodymag : 1:57 AM
December 2, 2022
『In-Mates』飯山由貴
暗い画面が俄かに明るんでゆく。しかしその明るさは、あくまで仄暗いトンネルを照らすために点在する電灯によってもたらされたもので、延々と続くかに思える長い長いトンネルのなかを照らし出すには心許ない。遥か遠くで、警告のようなアナウンスがこだましているが、声が言葉としての像を結ぶ以前に、そのアナウンスはトンネルのなかの反響として消えてゆき、なにを語ろうとしているのか聞き取ることはできない。同じように、声...
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投稿者 nobodymag : 5:07 PM
FIFAワールドカップ2022 日本対スペイン 2−1
スペイン対ドイツの試合後、肩をくみ、笑い合うでもなくピッチを同じように鋭く見据え、語り合うルイス・エンリケとハンジ・フリックの姿は、『フォードvsフェラーリ』でレース後にただ2人見つめ合うクリスチャン・ベイルとレモ・ジローネ演じるエンツォ・フェラーリを思い出すような美しさがあった。勝負において、しかし勝ち負けではない価値を知っている者たちだけが味わえる幸福な瞬間である。お互いが、お互いの用意して...
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投稿者 nobodymag : 4:37 PM
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