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June 15, 2024

ユーロ2024──ドイツ対スコットランド(5-1)
梅本健司

[ sports ]

 ドイツは両ウィングのヴィルツ、ムシアラを中に絞らせて、トップ下のギュンドアンとともライン間で顔を出し続ける。後方は左センターバックのターの左横に中盤のクロースが降りて3枚をつくり、その分両サイドバックを上げる。あくまでイメージだが、初期配置4231から3151へと可変する。上がった両サイドバックのスペースが使われやすくなるため、決してリスクの低い陣形ではない。それでもドイツがここまで圧倒できたのはヴィルツ、ムシアラ、ギュンドアンの異常なプレス耐性によるのもあるが、それだけでもない。
 ドイツが素晴らしいのは裏抜けの多さである。ワントップのハヴァーツを筆頭として、相手最終ラインの後方を終始狙っていた。ワールドカップで素晴らしいポゼッションを見せたスペインに足りなかったのはまさに裏抜けで、どんなに綺麗な陣形をつくっても、足元でボールを受け続ければ、相手も守る範囲を絞ることができてしまい、いつしかチームは呼吸ができなくなる。日本の奇跡的なハイプレスがハマったのも、スペインが足元で繋ぐことにこだわってしまったからである。
 裏抜けは、それに合わせたスルーパスが成功すれば一気にゴール前でチャンスになるだけではなく、それを警戒した相手の最終ラインが下がることで、結果的に最終ラインと中盤とのライン間を広げるというメリットもある。つまり裏抜けの多さが、ヴィルツ、ムシアラ、ギュンドアンらが足元でプレーするスペースを確保していたのである。

 スコットランドは当初523を選んだが、これはドイツが選んだ戦術と噛み合わせが悪い。ミドルブロックでゾーンディフェンスを敷いたスコットランドは中盤の2枚で、ドイツのヴィルツ、ムシアラ、ギュンドアンを抑えなくてはならないからだ。裏抜けを警戒した最終ラインも前に潰しに行きづらい。5バックは4バックに比べて、単純に最終局面での守備力は上がるが、その分前線か中盤に割ける人数が減る。スコットランド監督クラークは中盤を削ったのだが、それが悪手だった。前半途中にはそれに気付き、フォーメーションを532に変更して中盤の強度を上げたものの、束の間センターバックのポーテアスが退場したことでゲームが決まってしまった。
 
 付け加えるならばそもそもゾーンディフェンスは古い。野球の守備を想像してもらえばわかるが、ゾーンディフェンスとは人ではなく、それぞれ決められたスペースを埋める守備のことである。しかし、野球とは異なり、常に同じ位置に人を配置できるわけではないサッカーにおいて、担当のスペースを局面に沿って振り分けることは難しい。担当が曖昧なスペースというのも生まれてしまい、守備者それぞれの責任も曖昧になる。だからこそ、前からの守備であろうが、後での守備であろうが、サッカーの守備は基本的に人こそを抑えにいくべきなのだ。今期プレミアリーグで最少失点だったアーセナルや、ヨーロッパでそれまで唯一無敗だったレヴァークーゼンに黒星をつけたアトランタは、仕方は異なるものの人を抑える守備を基本としていたのだった。「スペースは点を獲らない」と早くから語っていたイビチャ・オシムがどれだけ偉大だったことか。