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July 6, 2024

ユーロ2024──スペイン対ドイツ(2−1)
梅本健司

[ sports ]

 前半ドイツの問題はスペインの左インサイドハーフ、ファビアン・ルイスを自由にさせてしまうことだった。ワントップのハヴァーツと右ウィングのザネが前に出て、スペインの2センターバックに着く。トップ下ギュンドアンはアンカーのロドリ、左ウィングのムシアラは右サイドバックのカルバハルをマーク。余ったスペインの左サイドバック、ククレジャに対しては右サイドバックのキミッヒが出てくるから、ドイツはかなり前からスペインのビルドアップを捕まえにいっていることになる。たしかに、W杯のときのルイス・エンリケ=スペインとは異なり、ビルドアップの形が整っていないデ・ラ・フェンテ=スペインに対してこの方法は有効だろう。だが、ハイプレスは前にずれ遅れる選手がひとりいるだけでリスクが格段に上がってしまう。残念ながら、ファビアン・ルイスのマークを担当するエムレ・ジャンが今回ずれ遅れる人だった。
 とはいえ、ジャンが悪いというよりもファビアン・ルイスの細かい動き直し、ボールを受けてからのテクニックが凄まじかったと言うべきだろう。事実、ナーゲルスマンはジャンのマークの緩さを気にして、おそらくコンディションが万全ではなかったアンドリッヒに交代したものの、事態はさほど変わらなかった。前へのプレスに人数をかければ、当然後方が薄くなる。とりわけ両ウイングを含めた、前線の質が高いスペインからして、それは十分に付け入れてしまえる隙だったのである。
 後半序盤に、ギュンドアンを競り合えるフォワード、フェルクルクに代えてから、ドイツはクロス攻撃に切り替える。テクニシャンをここまで揃えながらも、色気のない攻撃を徹底させられるドイツはやはり素晴らしいと思った。スペインは、前線からのプレスは良いが、撤退守備のときのウィングの戻りが甘く、サイド攻撃を繰り返されるとサイドバック、とくにククレジャへの負担が増えてく。ドイツもうまくスペインの弱みを突いたわけだ。

 今回スペインを取り上げるのはこの試合がはじめてになる。先ほども少し書いたがスペインの強みはウィング。21歳ウィリアムズと宿題を持って今大会に挑む16歳の神童ヤマル。ドイツとは異なり、彼らは基本ウィングらしくピッチの端で勝負する。それから前線の守備。オーストリアやドイツほど整ってはいないが、個々のマークへ向かうスピードは今大会屈指と言ってもいい。そして、何よりリードしてからのパス回し。美しいというよりもいやらしい。ゴールを目的地にしないパス回しは、ただ時間を進め、相手を氷漬けにしてしまうのである。
 クロアチアもイタリアもそのスペインを前に凍死した。ドイツは唯一それを一時的に崩すことには成功したのだが、そのときには交代カードを使い切り、燃え尽きてしまった。