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July 6, 2024

ユーロ2024──ポルトガル対フランス(0−0(PK:3−5))
梅本健司

[ sports ]

 フランスは5試合で3得点に留まっている。それぞれの試合を振り返ればシュート数で相手をいつも上回っているので、必ずしもチャンスをつくれていないわけではないのだが、ただそのチャンスの質が低い。シュート数に対して枠内に飛んだシュート数が異常に少ない、つまりかなり難易度の高い状況でシュートを打たされていることになる。 
 原因はふたつ。センター・フォワードでオリヴェエ・ジルーをフル出場させられないこと。以前書いたようにジルーはフランスの攻撃の要だった。自らが強引にチャンスを作り出すというよりも、前線で相手を背負ってボールを受け、少しためてから、前向きの選手に簡単にはたく。そうすることで、フランスの前線は気持ちよく攻撃ができる。ベンチにはいるジルーを出場させないのは、年齢を重ねたジルーの強度を気にしているのか、他にも要因があるのかわからないが、現状出ているマーカス・テュラムやコロ・ムアニだとエムバペの動きにスムーズに反応できない。
 右ウィングにデンベレを使わないことがふたつ目の原因なのだが、ただしこれに関してはそうしない理由もわからなくはない。この得点力で勝ち上がっているのだから、逆に言えばフランスは守備が硬いということになる。フランスの守備は、前からボールを狩りにいくドイツやスペインとは異なり、どちらかと言えば撤退して陣形をコンパクトにする。とくにバックラインの4枚はかなりコンパクトで、あまりサイドの守備に出ていかない。そこにはウィングが戻るか、ボランチがサイドにずれる。ボランチがサイドに吊り出された場合、空いた中央にはウィングがカバーに入るので、いずれにせよウィングには高い守備意識が求められる。しかも、基本的に左ウィングのエムバペは前残りするため、ほとんど自動的にそれは右ウィングの仕事となる。バルセロナでチャビに説得されてから守備をするようになったデンベレだが、状況に合わせて守備の判断ができるほど心が入れ替わったわけではなく、2戦目までは起用されていたものの、デシャン監督はそもそもウィングを使わずに、トップ下のグリーズマンを含め、中盤を4枚に増やしてより中央を固めるようになった。代わりに攻撃時に右の幅はサイドバックのクンデが上がって使うのだが、本来後方に残ってカウンターのリスク管理をさせたい守備的な選手であり、前での仕事は得意ではない。フランスが相手を押し込んで連続で攻撃を繰り返すサッカーにならないのは、以上のように守備強度のために攻撃を犠牲にしているからである。
 
 そんなフランスの試合が退屈なものになるかどうかは相手による。格下で引いてくる相手ならば、どちらも前に出ず動きのない試合になる。しかし今回の相手はおそらく最後のユーロ出場となるロナウド率いるポルトガル。どちらも前線からの守備はしないので、相手ゴール近くまでボールを運ぶのは容易だが、ポルトガルも同様に水際の守備力が高い。それゆえに両チームの攻撃は大体単発で終わり、攻守が目まぐるしく入れ替わる。つねにハイライトを見ているような面白い試合となった。