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July 7, 2024

ユーロ2024──イングランド対スイス(1−1(PK:5−3))
梅本健司

[ sports ]

 スロバキア戦終了間際でのベリンガムのオーバーヘッドも、感動というより、彼らはまだこんな苦しい条件下で戦い続けなくてはならないのかと不憫になってしまった。それほどイングランドは良くなかった。いくら個々の質がずば抜けていようと、考えなしに並べられると何も機能せず、プレミアリーグファンでないと見ていられない90分を過ごすことになる。
 しかし、ここにきて不動のサウスゲートがまさかのスイス対策を用意してきた。まぁ手前味噌もいいところなのだが、今大会のなかでは悪くないスイスの機能的な5バック戦術も相俟って、延長戦まで退屈しない試合となった。

 イングランドの変更は一見シンプル。トップ下のベリンガムと左ウィングのフォーデンの位置を入れ替えた。初期配置4231において、単純にふたりの選手のポジションが入れ替わっただけとも説明できるのだが、フォーデンを右シャドー(つまりトップ下)、ベリンガムを中に入れて左シャドーにして、右ウィングのサカを右ウィングバックに下げた523に変更したとも言える。目的は同じく523のスイスに対してミラーゲームを仕掛けることだろう。スイスの3センターバックに対して、イングランドはケイン、フォーデン、ベリンガム3枚をあてる。別にポジションチェンジをしなくとも、事前に誰が誰にマークにいくか決めておけば、スイスの3バックを抑えることは可能なのだが、構造を変えることで細かい打ち合わなしにマーカーの責任が明確になった。
 このポジションチェンジに割を食うかたちで、イングランドの左サイドの攻撃が死ぬ。ただしこの変更の前から、元々右足でのクロスが持ち味だったトリッピアーを台所事情から左サイドバックで起用しなくてはならず、左サイドがあまり機能していなかった。中途半端に生かしておくよりも、今回完全に捨てたことでむしろ攻撃の目線がある程度揃ったのだ。

 とはいえ、試合をコントロールしたのスイス。イングランドの付け焼き刃5バックとは異なり、スイスの5バックは練度が高い。通常なら最終ラインがスライドすべきサイド攻撃に対して、最終ラインはコンパクトにまとまったまま、あまり動かず、ボランチや両シャドーが戻ってくる。後を徹底して乱さないようにする陣形を崩すのはどのチームでも苦労するばすだ。
 崩す方法は主にふたつある。ひとつは裏抜け。いくら5バックであろうが、というかむしろ後方の人数が多く、ラインコントロールが難しくなるがゆえに裏抜けは有効だ。だがイングランドはドイツのように裏抜けを指示されていないし、ケイン、ベリンガム、フォーデンは降りてボールを受けにくるタイプだから、選手の判断で勝手に裏を使ってくれることも少ない(唯一右ウィングのサカだけは裏への意識がやや強かった)。もうひとつはロングシュート。これに関しては可能性がある。もっともロングシューターを擁するのがイングランドだからだ。

 サッカーにおいて、どれだけいい守備をしても、避けられない失点は1、2点ある。当たり前だが、だからこそたまたまではなく、再現性のあるパターンを用意して複数得点を狙いにいかなくてはならない。前にはスムーズに運べるが、最終局面での動きだしが緩慢だったスイスはそこが足りなかった。