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July 10, 2024

ユーロ2024──スペイン対フランス(2−1)
梅本健司

[ sports ]

  フランスはスペインにリードされると分が悪い。コロ・ムアニ、カンテ、チョアメニで、スペインの心臓ロドリとファビアン・ルイスを抑えるという相手に合わせた守備を用意してきたものの、それも前から奪いにいくものではなく、相手の攻撃を停滞させるためのものである。すなわち相手とイーブンな殴り合いをする限りにおいては有効だが、そもそも自分たちであえて攻撃を停滞させてボールを持ち続けようとするリード後のスペインのようなチームに対しては、むしろやりたいことをやらせてしまうだけだ。守備で機転が効くグリーズマンではなく、デンベレを右ウィングに使ってきたということは、今回ある程度リスクをかけて、はやめにリードし、後はそれを守り続けるというのがフランスのシナリオだった思う。しかしながらじっさいにデシャンに求められた采配は如何に試合を殺すかではなく、逆転するかだった。それは彼の苦手な分野だ。
 後半フランスの攻撃が増えたのは、デシャンの采配によるものではなく、スペインの若いウィングの疲れによるものだろう。合わせてもクリチャーノ・ロナウドの年齢に届かないスペインの若手ウィングふたりは現時点でも異常な突破力やクロスの精度を持っているが、90分間守備を継続できるほどのスタミナはない。プレスバックが緩慢になり、その分フランスのサイドの選手に自由が生まれた。スペイン側からしたら、キープ力と引き換えにいつこの両ウィングを代えるのかということが問題だったがデ・ラ・フェンテはかなり我慢し、この試合ではそれが功を奏したと言っていい。
 フランスは62分に一気に3人の選手を交代する。カンテ→グリーズマン、ラビオ→カマヴィンガもフレッシュ交代であまり意味がない気がしたが、それよりもセンターフォワードのコロ・ムアニと左ウィングのバルコラの交代が悪手だった。意図は、さらに守備を免除するためにエムバペを中央に入れつつ、バルコラでスペインの弱くなったサイドを狙い続けるためだろう。ただ、身も蓋もないがバルコラはそもそも守備が緩く、守備を免除されているエムバペとさほど変わらない。プレスバックもせず、中のパスコースも切れない。それからエムバペの中央起用は、ゴールへの距離は近づく一方、ボールを触る機会は密集地帯だから少なくなる。さらにコロ・ムアニをバルコラに代えてしまったことで、後に控える、ヘディングのターゲット、ジルーをサイドの起点デンベレと交代しなくてはならなくなった。クロスの送り先はいるのに、クロスを一番上げられる人がいない...。というわけでほとんどフランスは自滅に近い。

 それでも今回スペインの両サイドバックを褒めずに終わることはできない。左サイドバック、ククレジャ。相方を組む同サイドのウィングに恵まれないことが多く、ひとりでふたりの相手を抑えなくてはいけなくなったりと、置かれた状況のせいで不当な評価を受けることもあるのだが、それでも文句を言わず90分気持ちのあるプレーをいつも続ける。昔で言うとプジョルに近い。前回退場となったカルヴァハルの代役として右サイドバックを務めたヘスス・ナヴァス。右ウィング、ヤマルの22歳上、38歳。もともとウィングだったが、30歳手前でサイドバックとして起用されはじめた。経歴からして、攻撃に振ったサイドバックと思いきや守備の準備力が高い。怪物エムバペに臆せず挑むヴェテランの姿に感動した。