ユーロ2024──オランダ対イングランド(1−2)
梅本健司
[ sports ]
怪我したメンフィス・デパイに代わり、同じセンターフォワードではなく、中盤のフェールマンを入れたオランダの采配がまずよかった。前の3人と上がり目のボランチがポジションチェンジを繰り返しながら、ライン間を狙い続ける523のイングランドに対して、オランダはその交代からゾーンではなく、人を捕まえにいく守備の意識が強くなった。ドイツ対スコットランドのときにも書いたように、ゾーン守備の弊害は誰が誰にマークにつくのかが曖昧になることである。相手がポジションチェンジを多用する場合、マーカーの判断はさらに難しくなるのだが、場所を基準とするのではなく、人を基準に変えればある程度相手の入れ替わりに対しても付いていけるようになる。
オランダの右サイドバック、ダンフリーズは、絞って中のスペースを埋めるのがいいのか、サイドに出ていくのがいいのかなど、瞬間的な守備の判断全般が苦手な選手であり、その点からもゾーンではなくマンツーマン気味の守備にしてあげることは利点が大きい。ダンフリーズに絞らせることなく、中央で駆け引きするイングランドの選手にはボランチのスハウテンが下がって対応する。ダンフリーズも外に張った選手の対応に注力できる。
前半35分のデパイからフェールマンへの交代の目的はおそらく一旦守備を整理することだったから、攻撃時に3枚になったボランチの役割までは明確になっておらず、一時的に攻撃は停滞したものの、それもしっかり後半で修正してきた。オランダは試合中の修正力に関して今大会でもっとも素晴らしい。監督がバルセロナの崩壊を加速させたクーマンだということがちょっと信じられない。
ミドルサードやディフェンシブサードでの練度の高いマンツーマン守備を崩すためには、今大会何度目かわからないが、やはり裏抜けが重要である。守備側からして、前に出て相手を潰しにいく判断は個人でもできる一方、裏抜けに対応するために下がる判断は最終ライン全体でバランスをとる必要があり、その慎重さから歪みが生まれやすいからだ。なので、はたしてサウスゲートがどれだけ自覚していたのか定かではないが、低い位置に降りてボールを受けるケインから、イングランド代表で唯一裏への動きだしが多いワトキンスに代えたのは、かなりの名采配だったと思う。結果論ではなく。