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July 15, 2024

ユーロ2024──スペイン対イングランド(2−1)
梅本健司

[ sports ]

 イングランドの守備は歯痒い。ワントップのハリー・ケインはこの試合守備が緩慢で、そのせいで後続の選手たちがどのタイミングでプレスに行くべきか迷っていた。ハイプレスにとって重要なのは、ファーストディフェンダーがプレスの方向性を決めることだ。中央に誘導するのか、サイドに追い込むのか、それならどちらのサイドなのか。最初のプレスの仕方で、後続にメッセージを発する。スペインのワントップ、モラタは今までそんなことはできていなかったのだが、今大会キャプテンマークを巻いてもらったせいなのか、しっかりと前線からプレスを率いていた一方、ケインは誰にプレスにいくのでもなく、ただ歩き回っているだけだった。もちろん、そもそもプレスの掛け方は選手主導ではなく、監督が決めるものだが、サウスゲートにそれだけの素養がないことは前から知れていたことだ。
 
 ドイツのナーゲルスマンと比べてデ・ラ・フエンテは戦術的な手札がそこまで多くはないものの、誰が出ても同じ守備が続けられるような戦力運用がよかった。たとえば、やろうと思えばバックラインのスタメンをヴェテランで埋められるところ、カルバハルひとりの起用に留めた。ドイツとの死闘で満身創痍になりながらも、次のフランス戦で立て直せたのはそのためであろう。
 ハイプレスを機能させたいチームにとって、もうひとつ重要なのは後方に経験豊富な選手たちがいることだ。ハイプレスは全体が連動しないと、相手にとって絶好のスペースを空けてしまう可能性があり、前線の選手たちはそれをケアしながら前に出ていくのだが、いちいち後ろを確認していたら、プレスが遅れてしまうので、ディフェンスラインからの掛け声が必要不可欠になる。プレスにいくのか、ステイしてスペースを埋めるのか。その点、スペインの両サイドバックはコンビを組む両ウィングの守備の舵取りが上手かった。加えて、仮に前線のプレスにブレが生じても中盤のファビアン・ルイスとロドリが絶妙なタイミングでカバーに入るから隙がない。唯一懸念だったセンターバックも、彼らが釣り出される前に、相手のチャンスの芽を摘んでいたため弱みが出なかった。
 スペインの全勝優勝。華やかパス回しは前線から守備にこそ支えられていた。ベストゲームはスペイン対ドイツ