「アメリカ映画史上の女性先駆者たち」特集
今回の特集では、映画黎明期からハリウッド黄金期にかけてアメリカで活躍した女性たちの作品を上映する。この中でアーズナーが“ハリウッド黄金期唯一の女性監督”と言われている。アリス・ギイがアメリカで作った巨大スタジオがハリウッドに影響を与えたことは疑う余地もなく、ウェバーもサイレント期には最もギャラの高い監督の一人と言われたが、どちらも映画産業の興隆と共に活躍の場を失っていく。またルピノは夫と作った製作会社、ダヴェンポートも自主製作やインディーズを中心として監督しており、巨大産業として発展したハリウッド・スタジオシステムが女性監督に門戸を開いていたとは言い難い。
そうした女性であることの不利益の中で歴史に埋れてきた作品たちを、今改めて見出す機会になればと思う。それはこれまで見過ごしてきた世界と向き合い直すことでもある。ルピノ『暴行』やアーズナー『人生の高度計』のフェミニズム視点は、当時としてエッジが効いていたのはもちろん、現代から見ても鋭く刺さる。
もちろん女性監督が女性的なテーマばかり撮っているわけではない。ノワールに数多く出演したルピノ『ヒッチハイカー』は王道のフィルム・ノワールだし、ウェバー『ポルチシの唖娘』は迫力ある歴史スペクタクル大作。男性監督が十人十色であるのと同様、女性監督の作品も多様だ。女性である以前に個人が持つ作家性や、それぞれの作品の魅力を楽しんでほしい。そして、今回の特集が様々な出会いの場となり、多様な女性監督たちへの関心につながっていくことを願っている。
上條葉月(字幕翻訳者/シネマヴェーラ渋谷スタッフ)