2話
入口から考える
高木佑介
誘拐事件発生を受けて、第2話ではモーロ救出に尽力する内務大臣のコッシーガ(ファウスト・ルッソ・アレジ)に焦点が当てられる。しかしその前に、そもそもこの『夜の外側』と題された作品の中に、人はどのように入っていけばいいのだろうか。例えば『夜よ、こんにちは』の冒頭に据えられていたのは、赤い旅団のメンバーがアジトとして使うことになる家を不動産業者とともに内見に訪れる場面であり、その家にはどうやら「入口がふたつある」ことが案内人たる業者の説明によって早々に明示されていた。すなわち、物語の主な舞台となる空間への入り方の案内がそのまま作品自体の冒頭=入口になっていたのであり、またそれとほぼ同時に立ち上がる問いとして、その家からの出ていき方=出口の問題がそこですでにして提起されていたわけだ(言うまでもなく、まるでそれが入口と出口を兼ねた扉であるかのように冒頭とラストで都合2回提示されるタイトル——「ジョルノ=日中」と「ノッテ=夜中」が表裏一体となったような——が冠されたその映画では、「入口がふたつある」という家からの「ふたつの出ていき方」が、物語の終わりに描かれることになる)。
©︎ 2022 The Apartment – Kavac Film – Arte France. All Rights Reserved.
作品の始まり、つまり、「1」から「6」までの数字が律儀に振られた各話のうちの「1」の冒頭で展開するのは、赤い旅団から無事に解放されたというアルド・モーロのもとをコッシーガ(と、のちに了解される男)を始めとする政治家たち(と、ほどなくして了解される男ら)が訪れる画面である。ここではたしかに、縦構図で捉えられた病院の長大な廊下を神妙な面持ちで歩いてきた政治家たちが、「今は絶対に安静です」という医師の制止にもかかわらず「一目だけ」と横手にある病室に「入っていく」様を見ることができる。ただ一人コッシーガだけが少し躊躇するような様子を見せるものの、結局は彼も他の政治家たちに続いてその病室に入っていき、そうして対面するまでにいたったベッドに横たわる男こそがアルド・モーロその人であることが、解放されたことに対する謝辞を述べたモノローグが聞こえてくるあたりで人々にも了解される。その一連の流れが、この作品の始まりであり入口であると、ひとまずは看做すことができる。
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