2007年10月23日

I Get a Kick Out of You : 2007年ラグビー・ワールドカップ総括

キッキングゲーム
やはり開幕戦のエルナンデスのハイパントは衝撃的だった。スタード・フランセでの彼のプレイは見たことがないが、高々と上がったボールがなかなか落ちてこない。そこに殺到するフランスとアルゼンチンの選手たち。
キックで陣地を取る。それが合い言葉のようにどのチームも蹴る。蹴る。蹴る。これでいいのか、という疑問符を付ける暇もなく、蹴ってはボールを追う。99年のW杯準決勝のフランス対オールブラックスにおけるラメゾンのキックも衝撃だったが、それが衝撃的だったのは、キックが例外的であり、当時、ワラビーズのボールのリサイクルこそが主流だったからだ。ボールを保持し続け、フェイズを重ねてディフェンスの薄くなったところを攻める。それこそが99年のワールドカップを制したワラビーズ(あるいはブランビーズ)の戦術だった。そして、03年のW杯ではイングランドがウィルキンソンの左足で勝利をたぐり寄せる。
キックは確かに重要な要素だが、エルナンデスのまるでもうひとつのフットボールのようなキック(トラップし、アウトサイドやインサイドで多彩なボールを蹴り分ける)を見ていると、ラグビーがまったく異なる次元に連れて行かれるのを感じた。復帰したウィルキンソン、そしてモンゴメリー、あるいはフランスのボクシス。ワラビーズの敗退はまるでそこに名キッカーを欠いたがゆえのことだったようにも思える。
ロングキッカーを配して陣を進めたり、PG、DGを狙うといったスタイルが、あたかもワールドスタンダードになってしまったかのようだ。例外はあるが、全体的に見ると、戦術の多様化ではなく、単一化に向かっているようだ。一時、世界のフットボールで、アリゴ・サッキが産み出したプレッシング・フットボールこそがモダンフットボールといわれたように。
だが、3位決定戦でもフランスを敗ったアルゼンチンが、決してキッキング・ラグビーに拘らなかったように、キックこそが最善の選択肢ではないことはどのチームも分かっている。だが、強いFWのディフェンスとキックによるゲームの組み立てこそが、今大会を席巻してしまった。負けないこと=守りきることを主体にチーム戦術を考えると、どのチームも同じ結論に達してしまう。しかし、それはネガティヴなワールドスタンダードなのではないか。成功体験を大事にして、現在を過去のひな形に落とし込むのはどう考えても反動的なことだ。

オールブラックス、レブルーの敗因
フランスがオールブラックスに勝ち、黒衣軍団は帰国を余儀なくされた。フランスにとって、このゲームが唯一の会心のゲームだったろうが、それについては後述する。問題はオールブラックスが準々決勝で負けたことだ。今でもぼくはこのチームがW杯では1番だと思っている。アタックでもディフェンスでもベストメンバーならば、もっとも素晴らしい。カーワンは経験を欠いていると言ったが、問題は、経験よりも、キーになる部分に人材を欠いていたことではないか。どこに問題があったのか? フロント3だ。カーターとマカリスターを並べることで、確かに攻撃力は上がるだろうが、センターにはもっと突破型の人材を配するべきだった。グレアム・ヘンリーはしぶとく勝つのではなく、美しく勝つことを目指したのだろうが、カーターが怪我をしたら、パサーのニック・エヴァンスが登場し、ゲームの質が変わってしまった。マカリスターはカーターの控えに置いておくべきだった。
そのオールブラックスに快勝したフランスもイングランドとアルゼンチンに敗れ、後味の悪い自国開催になった。このことについては別のところ(狂会本)に長く書きたいのはここではその端緒だけ。ディフェンスについての方法論は確立されたが、アタックの面では最低のレブルーだった。このラグビーにクリエイティヴィティはない。逆にこのチームが準決勝まで来たのが不思議なくらいだ。

アイランダーズの健闘とジャパンの将来
フィジーとトンガは素晴らしかった。彼らはディフェンシヴなゲームメイクからPG、DGというチームではなかった。特にフィジーは、ゲームを進めるにつれて、自らに備わったDNAを少しずつ思い出していった。このチームも、もちろん第1回W杯で旋風を巻き起こしてから、ニュージーランドからコーチを招き弱点を消すことに走って失敗を重ねた。だが、一試合ごとに、自分たちの本能を目覚めさせた。最初のゲームが対ジャパン戦。接戦だったことを思い出せば、そのチームがウェールズに勝つことになると予想した人はないだろう。ディフェンスを強化して、じっくりと戦うのが、このW杯のメインストリームだとしたら、長短のパスとディアゴナルな走りでボールを繋ぐことを中心に据えたフィジーのラグビーは、完全な例外になる。前回W杯のウェールズのセクシー・フットボールがある程度の成功を収めたように、パス・プレイにはまだまだ可能性がある、そのことを見せてくれた。
そして、ぼくらだってアイランダーだ。
けれどもフィジーやトンガのようにはなれなかった。2勝するというチームの目標からは遠い結果しか得られなかった。失敗だった。原因はいろいろあるだろう。もちろんスキルの差。特にSOの差は目を覆うばかり。残念なのは、カーワンのリクルートがベストではないこと。素早いライン攻撃をすると自ら言うのなら、それなりの人材を当てはめるのがヘッドコーチの役割ではないのか。結局、このチームはジェイムズ・アーリッジの怪我から、ずっと悪循環が続いている。そして、アーリッジに代わるピースを見つけようともしなかった。これはHCの怠慢だ。
どうすればいいのか。
長期的な視野に立って、長い期間をHCに任せるという意見にぼくは与しない。毎年、目標を与え、その達成度を査定し、評価していく作業が必要だ。だが、もちろんジャパンの合宿で基礎的なスキルや戦術を反復練習しているようではいけない。各所属チームでのスキルアップが大原則だが。まずパシフィック・シックスネイションズで最低2勝。アメリカやカナダなどにはコンスタントに勝てるチームにすることが評価の基準になるだろう。

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2007年10月21日

Importance of Being Patient:イングランド対南アフリカ 6-15

 ディフェンス勝負、しのぎあいの決勝戦らしいゲームになった。それが面白いゲームかといえば、正反対で、なかなか点が動かないスタティックなゲームなのだが、それも仕方がないだろう。
 戦前の予想ではスクラムのイングランド、ラインアウトのスプリングボクスということだった。そしてイングランドの1番シェリダンは予想通りボクスFWをめくり、ボクス5番のマット・フィールドは予想通りイングランド・ボールのランアウトを何度かスティールした。だが、ディフェンス・ゲームになるのはそれからだ。イングランドはボールを保持しながらもボクスFWを圧倒するには至らず、ボクスもターンオーヴァー、あるいはインターセプトからのカウンターを仕掛けるには至らない。つまりPG勝負になる。どちらのFWが自陣を背に我慢し続けられるか、そして、我慢できない場合のウィルコとモンゴメリーのキックの調子はどうか、ということ。
 こうしたゲームでは、そんな予想を誰でもが立てるし、そして、その通りになるのだが、だからといって退屈なゲームになるというわけではない。壮烈な局地戦が展開されているからだ。マーティン・コリー、ムーディー、そしてスカルク・バーガー、ジュアン・スミスといった面々がラックに突っ込んでいき、ぎりぎりの攻防を仕掛けている。SH、SOにクリーンなボールが出てライン攻撃ということは起こりにくい。キックを追うサッキー、そしてハバナ、そしてピーターセン。そしてそこにいち早く到着したフランカー陣によって再び局地戦が展開し、そして、タッチキックかオープンサイドへの地域を取るキック。またハバナ、サッキー……。
 結局、長い距離をステインが放り込んだスプリングボクスに一日の長があったということだ。それにしてもイングランドはここまでよく頑張ったと思う。このチームに「処方箋」がなかったときから、ウィルコが復帰し、ヴェテラン勢が最後の力を振り絞り、シェリダンはスクラムで頑張り続けた。準優勝は賞賛されるべきだろう。もちろんアシュトン・ヘッドコーチへの賞賛ではない。彼は何もしなかったし、彼によってゲームが勝利に導かれたわけではないのだから。一方のジェイク・ホワイトのチームは、ハバナを始めとする快足バックスを一応封印して、勝てる決勝戦を作ってきた。トライネイションズで前半だけはオールブラックスやワラビーズを圧倒しながら、後半になるとフィットネスが落ちる欠点を克服し、最後まで「切れない」チームになってきた。このチームの白眉は決勝ではなく、対アルゼンチン戦、つまり準決勝だった。出来が悪かったとは言え、アルゼンチン相手に我慢し、ハバナで勝った完勝のゲームは、3位決定戦でのアルゼンチンを見れば、ボクスの強さを逆に照射しているようだ。
 とりあえず4年に一度の祭は終わった。満足度は大きくない。そのことについては、次回、今回のW杯を総括しながら考えてみたい。

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2007年10月20日

Rest is Silence : フランス対アルゼンチン 10-34

 リヴェンジを目指したフランスが返り討ちにあった。
 もう冒険は終わった、という詠嘆があって、フランスにモティヴェーションはないだろうと思われたが、ゲーム開始当初は積極的にボールを回し、タッチライン際まで良いボールが渡った。だが、リヴェンジの気持ちが逆に災いして、狭いところの勝負に落とし込んでいった。FW戦。アルゼンチンのトライラインを目前にして、フレアどころか、往年の「明治大学」のようなモール一辺倒のアタックに終始する。相手はディフェンス力では今回のW杯随一のアルゼンチン。いたずらに時間を浪費するだけだ。仕方なくボールを出してもアルゼンチン・ディフェンダーの餌食。誠実さと低さについてはナンバーワンのアルゼンチンから、この展開でトライを奪うのは困難だろう。
 つまり、冒頭ではけっこうボールを回したが、ゴールラインに近づくとFW勝負。このゲームにあたる戦術がまったく統一されていない。ディシプリンが徹底されていたオールブラックス戦はともあれ、フレアか、ディシプリンかのディコトミーでチーム作りを進めてきたラポルトの方法は、このゲームで完全に破綻したようだ。
 カウンターに出ると当然スペースが空き、外側で勝負に出ようとすると、アルゼンチンのバック3が強烈に突き刺さり、逆にカウンターを食う。トライ数1-5という数字はフランスの完敗を示しているが、FWだけに活路を求めたこの日の戦術は完全に失敗した。
 フランス語でMatch spécutaculaireと言えば、「見ていて面白いゲーム」であると同時にボールの移動が大きく「スペクタル」なゲームでもあるが、このゲームで「スペクタキュレール」なアタックを見せてくれたのは、アルゼンチンだった。カウンターからディアゴナルにフォローし、トライを奪い、接点で厳しく当たって、ターン・オーヴァーから一気にアタック。まるで今までエルナンデスのキックを活かすために封印してきた多様なアタックを、ピッチを広く使って展開する。解説の小林さんは「まるでフランスみたいですね」とアルゼンチンを賞賛していた。この大会に関しても初戦と3位決定戦が同一マッチになり、この大会でチーム力が向上したのはアルゼンチンだったということを点差が証明した。
 ベルナール・ラポルトの8年間は、結局、完全に失敗に終わった。99年W杯の準決勝、91年W杯の準決勝で、それぞれオールブラックス、ワラビーズ相手に見せてくれたフレアの神髄の一端もみせられず、このチームは終わった。少々古典的かも知れないが、「スタイルの戦い」をもう一度復興しない限り、リュグビー・フランセに未来はない。

投稿者 nobodymag : 14:24 | コメント (0)

2007年10月15日

White Hunter Black Heart:南アフリカ対アルゼンチン 37-13

 プーマスの健闘が期待されたが、充実のスプリングボクスの前に完敗した。トライ数4-1では、勝負にならない。エルナンデスに注目が集まったのも当然だが、彼もまたその能力を十全に発揮することができなかった。
 プーマスのラグビーが実に単純であるだけにスプリングボクスも対応が簡単だったのではないか。エルナンデスのキックに対応するために、まずFWで徹底したプレッシャーをかけ続ける。これは、ボクスがいつもやることで、プーマス用のものではないが、それでもジュアン・スミス、スカルク・バーガーを中心にハーフ団にかける圧力はノーサイドのホイッスルまで続いていた。このふたりなら、まさに適任だ。もちろんスミスが何度かオフサイドを取られ、最後にはエルナンデスへのハイタックルでシンビンを喰らったが、それもおまけのようなものだ。それまでのゲームのように、エルナンデスから超高いハイパントが上がることはほとんどなかった。そして長いキックに備えて、バックスリーがやや深めにポジションし、タッチになればクイックで入れ、プーマスに時間を与えない。そして、いつもようにかけ続けるプレッシャーの中からインターセプトを狙う。これも彼らはいつもトライネイションズでやっていること。
 プーマスのFWは次第に足が止まり始め、余裕をなくしたピチョットのパスも次第に上擦り始める。するとそこにボクスFWが殺到、エルナンデスもラックに巻き込まれる。ポゼッションでイーヴン、テリトリーでは勝っていても、プーマスの選手には次第に疲労が見え始める。プーマスにとってもチャンスはセットピースということになるが、スタッツを見ると、18回あったマイボール・ラインアウトを7回失っている。それに対してボクスは、19回中失ったのはわずか1回。マットフィールドとボタの功績大だ。こうなるとハバナ、ピーターセンの両ウィングの快走が始まり、イングランドのようにゴチゴチ前進するのではなく、スパッとトライを取る。デュラントも巨体を揺すってボールに絡んでいく。ハーフ団も生き生きとプレイしている。
 ゲーム開始前から泣きながら入場してくるロス・プーマスの選手たちに対して、ボクスの選手たちは何となく楽しそうだった。ジェイク・ホワイトの力のでもあるが、いつも彼の隣に佇むエディー・ジョーンズの表情も穏やかだった。ボクスの課題はいつものことだが、スクラム。アルゼンチンにやや押されているようではイングランドには返り討ちに合うだろう。エディー・ジョーンズはスクラムの少ないゲームを目論むことだろう。
 プーマスのラグビーは開幕戦ではフランスに勝ったことで、センセーションを巻き起こしたが、やはり引き出しの数が少ない。最初から鋳型に落とし込んだラグビーは硬直する。オールブラックスに負けないためにチームを鋳型に入れたフランスが最後までフレアを発揮できなかったように、パターンに落とし込むラグビーにはいつも弊害がつきまとう。イングランドについても同じことが言えるが、マイク・キャットの燻し銀のプレーとジェイソン・ロビンソンの個人技がある。だが、ロートル集団でハバナ、ピーターセンを捕まえることができるのか。まずFW勝負。
 あとは開幕戦と同カードの因縁ゲームとなった3位決定戦と決勝を残すのみ。シャバルがあるインタヴューで「ぼくらの冒険は終わった」と発言していることが気にかかる。Encore un, Sébastian! まだ冒険は続いているのだよ、セバスティアン!

投稿者 nobodymag : 23:43 | コメント (0)

2007年10月14日

Que reste-t-il de “French Flair” : イングランド対フランス 14-9

フランスのメディアの多くが、まず失望を書き、そして、敗因の分析をしている。このゲームだけに限れば、フランスは勝てるゲームを落とした。問題はゲームメイクにあったと思うが、そうしたゲームメイクをしている原因になっているのは、前回W杯以降のラポルトの方法や、今回のW杯におけるフランスの初戦の敗北とアルゼンチンの好調が遠因になっているだろう。
 まずゲームメイクの失敗だが、このゲームに限っては、フランスはおそれることなくフルアタックすべきだった。最近の対戦成績でも優位にあるのだから、常に思い切ってライン攻撃を仕掛けるべきだった。トライユのミスからイングランドにトライを奪われた直後から、フランスは確かにアタックした。そして、FW周辺からラインにボールが渡ると、ほとんど常にゲインラインを切っていた。だが、そこでいったん詰まると、決まってキック。テリトリーのゲームに戻ってしまう。対オールブラックス戦なら仕方がないが、このゲームはテリトリーよりもポゼッションで上回り、常に積極的にウィング勝負、そしてフォロー、パスという戦術の方がスピードのないイングランド・ディフェンスを振り切るのに適切だったろう。できるだけブレイクダウンを避け、ワイドに持っていく。これは忍耐強くやらねば、もちろんラインブレイクなど簡単にできない。だが、誰でもキックのできるフランスは、すぐに蹴ってしまう。
 もっと微視的に見れば、67分のフランスのアタックがノックオンを取られて不発に終わり、その後、ウィルコに1PG、1DGを決められたことが敗因だ。だが、ある程度キッキングゲームを封印しておけば、67分ばかりではなく、もう数回はトライチャンスになっていたろう。だから、これはキッキングゲームをするというラポルトの作戦の失敗である。ボクシスを使っているのだから、キッキングゲームという選択はあまりに単純だ。彼のキックの長さはテリトリーばかりではなく、ディフェンスでもっとも有効だろう。
 そしてラポルトの失敗は、オールブラックスに一度だけ成功した作戦をこのゲームにも採用したことだ。前半はキックを中心に落ち着いたゲーム運びをし、後半にミシャラク(シャバル、スザルゼウスキ)を投入しトライを狙いにいくあの作戦だ。彼の唯一の会心の勝利が先週のオールブラックス戦だった。だから彼は反復した。それまでラポルトのストラテジーによってゲームに勝利を拾ったことがなかったのだ。力が下のチームにはともかく、同等あるいはそれ以上のチームにラポルトは常に負け続けた。
 キッキングゲームは、確かに99年のW杯でラメゾンを中心にしたフランスがオールブラックスを敗った方法ではあったが、フランスがそれをやったのが、それまでのフランスがフレアに拘り、さらに相手がオールブラックスだったからだ。そして、今回、初戦で誠実なFWを前面に押し立て、背後で冷静にキックするエルナンデスのアルゼンチンに敗北したフランスは、ボクシスにエルナンデスの役をやらせようとして、最後に墓穴を掘った。
 レキップ紙でW杯の連載をしているオリヴィエ・マーニュは、「別のアイデンティティ」を持つべきだとラポルト批判を開始している。8年という長期政権は、やはり長すぎると言えるだろうし、同時にラポルトのやったことを冷静に検証すべきだろう。ワイド、ワイドの最初の2年、セレクションチームにそれが相応しくないと判断するや、ワールドスタンダードのラインを採用し、そして、何度もメンバーを交換した挙げ句、キッキングゲームへと舵を切ったこのヘッドコーチの方法をじっくり検証すべきだろう。だが、一番、重要なことは彼が指揮を執った2度のW杯で、レブルーは、いずれもセミファイナルでW杯を去っているという事実である。

投稿者 nobodymag : 14:42 | コメント (0)

2007年10月08日

Rebel with Causes : 南アフリカ対フィジー 37-20、アルゼンチン対スコットランド 19-13

 番狂わせ(?)が2ゲーム続いた前日に比べて、この2ゲームは、大方の予想通りの結果だとも言えるだろう。だが、フィジーとスコットランドの抵抗がとても興味深く見えた。
 まずフィジーはウェールズ戦に続いて「フィジアン・マジック」全開! スクラムを捨てパスプレイに徹し、ウェールズ戦以上に好印象を残した。どのチームもキックばかりの今回のW杯の中で、もちろんキックという選択肢もあるのだが、それ以前にラグビーの基本はパスプレイだという姿を実践して見せてくれたからだ。そして、彼らにとっては、ブレイクダウンの弱さすら大した問題ではない。クラッシュする前に放す、そして、サポートのランも直線的なものよりは、ディアゴナルなランで、次々に方向転換をしていく。パスも速いもの、遅いものを織り交ぜて、スペースとタイミングを創造していく。スプリングボクスは、少しズレ気味で入ってくるフィジーのランにハードヒットできない。ブレイクダウンもなかなか形成できない。もちろん、最後にはFWの力の差で勝利を収めたが、スプリングボクスに対して戦う方法をフィジーは見せてくれた。
 そして、スコットランドはFWが健闘し、アルゼンチンにはこう戦うのだという見本を見せてくれた。FWがイーヴンならエルナンデスのスーパーキックの威力も半減する。ディフェンスを固めたスコットランドは、アルゼンチンにほとんどラインブレイクを許さなかった。結果的には1PGと1DGの差で敗れはしたが、もし、彼らにもっとワイドに展開力があれば、勝負は分からなかったろう。確かにエルナンデスの技術はすごいが、アルゼンチンのラグビーは退屈だ。FWの頑張りとエルナンデスのキックだけでここまできたが、もう手札が全部出揃ったようで飽きてきた。勝てばいいのかも知れないが、ぼくたちがスポーツに期待するのは、かつてゴダールが映画について語ったCroire à l’incroyable, c’est ça le cinéma、つまり「信じ難きを信じることこそ、映画だ」の「映画」の部分をラグビーに置き換えたもの。昨日のフランスが一回だけ産み出したフレアみたいなものだ。開幕戦で驚きを以て迎えられたアルゼンチンのラグビーも、何度も見ると驚きを感じなくなるどころか、そろそろマンネリズムに陥っているように思える。
 
 さて準決勝はイングランド対フランスとスプリングボクス対ロスプーマス。まず後者から。
 ボクスがトライネイションズの緒戦当時の徹底したシャローのディフェンスからターンオーヴァーして両ウィングという戦術に徹すれば、エルナンデスという至宝も輝きを失うだろう。プーマスに勝つにはまずFWを粉砕すること。それにスプリングボクスのFWかイングランドのFWが相応しい。ブレイクダウンでのスカルク・バーガーとジョアン・スミスの活躍が鍵になるだろう。出したボールは常にワイドに。両ウィングが快走すればロスプーマスは敵ではない。ロスプーマスは何と言ってもピチョットの出来とリーダーシップ。前半20分までにボクスFWが圧倒すれば差が付くだろうが、プーマスがスローな展開に持ち込めば、エルナンデスのキックがものを言う。
 そしてイングランド対フランス。これは分からない。順当にいけばフランスだが、オールブラックスに対する奇跡の勝利で、彼のモティヴェーションが切れているかも知れない。するとウィルキンソン! ラポルトは、前半はボクシス、後半はミシャラクというオールブラックス戦と同じ戦略で来るのではないか。彼は一度覚えたことを何度でも使うタイプだ。拮抗すればイングランドにも勝機があるだろう。
 決勝が開幕戦と同カードになる可能性も捨てがたい。イングランド対ボクスでは面白くない。イングランド対プーマスでもつまらない。ぼくらファンは、フランスが最終日にサンドゥニに戻ることを期待している。ここでもまたフレアが必要だ。

投稿者 nobodymag : 23:14 | コメント (0)

2007年10月07日

You Only Live Twice:ニュージーランド対フランス 18-20

前半終了のスコアが13-3。堅いゲーム運びを選んだオールブラックスがフランスを防戦一方に追い込んでいる。フランスにタックルミスが少ないが、専守防衛では勝てないし、肝腎のPGが1発しか入っていない。トライユをFB、ボクシスをSO、エリサルドをSH、そしてウィングにもエマンスを起用し、キッカーを並べたラポルトの作戦が功を奏しているとは思えない。気合いの入ったディフェンスでも、マカリスターにブレイクされ、トライを献上している。流石に30分を経過し、0-13というスコアになってからは、トライユとボクシスのキックばかりではなく、ライン攻撃を仕掛けるようになったが、それまでのレブルーは「自衛隊」──それも日本国憲法にまったく違反する部分のない「自衛隊」だった。イラクに軍隊を派遣することもなく、インド洋で米軍に給油することもなく、カンボジアのPKOに参加することもない、領土防衛のみが目的の「自衛隊」だった。マカリスターに防御ラインを侵犯されてから、何とかボクシスのキックで反撃する。それで前半は終わりだ。
 奇跡とは1日に2度は起きない。だからワラビーズ対イングランド戦でその奇跡が起こって以来、このゲームはフランスの「自衛隊」の抵抗である程度拮抗した勝負になると思うが、それでもオールブラックスが順当に勝利するだろう。ぼくもそう思った。昨年の11月も、今年の6月も2連敗。それもまったく良いところがないまま敗れたフランスをぼくは目にしている。ボクシスは確かにグルジア戦では好キックを連発したが、プレッシャーのかかるオールブラックス戦は荷が重いだろう。そもそもボクシスを使うことや、トライユをFBに起用することは、傷口を小さくする戦術ではあっても、勝つための戦術ではない。今のフランスがオールブラックスに勝るのは、フレアだけだ。それもラポルトが監督に就任してから8年、このチームはフレアからディシプリンへと方向転換してきた。フレアに溢れたゲームは、前回のW杯対アイルランド戦以来見たことがない。前半のオールブラックスの勝つためのゲームメイクは、まずポゼッションに圧倒し、ラインブレイクできたところで集中し、ブレイクできなくても、敵陣でPG、そこでカーターが決めて点差を広げていくというものだ。正しい。圧勝できないかもしれないが、勝つ確率はこれが一番高い。前半終了間際にボクシスにPGを決められたが、点差は10点ある。スタッツを見れば、ポゼッションでもテリトリーでもおよそ8割はオールブラックス。最終的なスコアは30-9くらいか?
 だが、後半開始早々、前半のヒーロー、ルーク・マカリスターがシンビン。ボクシスPGで13-6。マカリスターがシンビン中もオールブラックスは積極的に攻め込み、レブルーをゴールラインに釘付けにする。だが、シンビン開け間際にデュソトワールがトライを返し、ボクシスのコンヴァージョンも決まり同点! 問題はここからだろう。
 マカリスターがシンビンから戻ると、ゲームは一時前半の再生ビデオを見ているようにオールブラックスがゆっくりとボールを支配し、ソーイアロのトライも生まれた。再びオールブラックスリード。ここからカラハーを、カーターを、オリヴァーを代えた。それを見たラポルトも、プルースをシャバルに、ボクシスをミシャラクに、そしてエマンスをドミニシに代える。ここが勝負だった。自陣22メートル付近でボールを拾ったトライユは蹴らずに、ミシャラクにパス、そして、ミシャラクは大きくゲインしてジョジオンにパス。そして決勝トライが生まれた。ミシャラク投入がギアチェンジの合図だったように、カーターとニック・エヴァンスの交代が敗退の予兆だったように、フランスの「フレア」が生まれ、一発でトライまで持っていた。スタッツは、フランスのラインブレイクがわずかに1回だったことを示している。オールブラックスは、W杯を去るとは言え、このチームがW杯で一番バランスのよかったチームだと言える。だが、すでにこのオールブラックスを何度も見たぼくらには、フランスに負けた事実を除いて、何の驚きも残せなかった。

投稿者 nobodymag : 22:03 | コメント (0)

All the Queen’s Men :オーストラリア対イングランド 10-12

 だからラグビーは分からない。最近のイングランドの袋小路に陥ったような不調。そして、ワラビーズはまったく危なげなく準々決勝まで勝ち上がっている。スプリングボクスに0-36の完敗を喫したとき、イングランドについて処方箋はないとぼくも書いた。誰がどんな見方をしようとワラビーズ有利は動かないところ。もちろん、99年のフランス対オールブラックスの準決勝も覚えている。でも、このイングランドに、あのワラビーズがまさかの敗戦を喫するとは誰も予想しなかったろう。
 もちろん、これも誰でもが考えることだろうが、僅差の勝負になり、ウィルキンソンのキックで勝つ。イングランドに勝機があるとしたら、これしかないだろう。そして、それが現実になった。10-12、確かにウィルキンソンの4発、ノートライでイングランドは勝ったのだが、ウィルキンソン自身の調子は余りよくなかった。狙ったPGを3本ミスしている。ワラビーズのキッカーであるモートロックの確率はこんなものだろうから、もしウィルキンソンが好調だったら、10-21ということなり、イングランド完勝のゲームだったわけだ。僅差でのイングランドの勝利というよりは、このゲームはイングランドのゲームプラン通りに運び、彼らが完勝したゲームだと言うことができる。
 このゲームがイングランドの完勝だとしたら、ワラビーズの敗因はどこなのか。裏を返せば、イングランドの勝因はどこにあるのか、ということになる。ディフェンスとスクラム。これに尽きる。ゲーム直後に発表されるラグビーW杯公式サイトのスタッツを見ると、このゲームの内容は一目瞭然だ。ポゼッションではイングランド52%、そしてテリトリーでは48%、タックルは共に85回、ミスはイングランド9回、ワラビーズ8回。ほぼ互角だったことが分かる。それにしても両チームともタックル成功率が9割、ポゼッションでもテリトリーでもほぼ互角だったことを見れば、このゲームがタイトなものだったことが納得されるだろう。だが、問題は次の部分だ。全部で12回あったスクラムのうち、イングランドは5回のマイボールをまったく失わず、ワラビーズは7回のマイボール・スクラムの内2回失っている。またターンオーヴァー数はワラビーズ5回に対して、イングランドは何と9回。簡単なことだ。FW戦でイングランドは圧倒的に優勢に立っていた。スクラムの優勢はゲームを見ている眼からも認識できたし、ボールのリサイクルからフェイズを繰り返しながらアタックするワラビーズが9回もターンオーヴァーされている。こうしたゲームではラインブレイクを何度かしなければ勝てないのだが、ラインブレイクはワラビーズが2回、イングランドが1回。ワラビーズがアタックで優位に立てず、ブレイクダウンとスクラムで完敗したということだ。ウィルキンソンの4発12点で確かに勝利したが、イングランドはFW戦で完勝している。
 もうひとつスタッツとは関係ない敗因がワラビーズにあるような気がする。ジャパン、カナダ、フィジー、ウェールズに問題なく完勝したというベスト8までに進む道が、余りになだらかだったため、初めてタイトなFWにあたり、ワラビーズが受けに回り、その問題をゲーム中に対応することができなかった。それに対して、イングランドは、すでに書いたようにスプリングボクスに完敗し、サモア、トンガに辛勝。これ以上負けるわけにはゆかないという気持ちが高まったことは想像できる。
 スプリングボクスに完敗したチームが、ワラビーズに完勝する。藤島大ならずとも「伝統」とか「魂」という言葉を使いたくなる。ディフェンスは気合いだ。イングランドの大ヴェテランの揃った第1列に敬意を表したい。そして、ぼくらはこれからフランス対オールブラックス戦!

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2007年10月02日

Don’t cry for me, Ireland:アルゼンチン対アイルランド 30-15

 フランスの圧勝に終わったフランス対グルジア戦から続いて、注目のアルゼンチン対アイルランド戦。
 ダブルスコアになった。もっと拮抗するゲームであって欲しかったが、ダブルスコア。だが、共にトライ数2。トライ数が同じで、ゲームが一方的になったのは、もちろん多くの人々が語る通りエルナンデスの個人技によるところも大きいけれども、もっと微視的に見ればアイルランドFWがアルゼンチンFWに完敗したことが原因だろう。ラインアウト、スクラム、ブレイクダウン、すべての面でアイルランドはアルゼンチンに歯が立たなかった。別の味方をすれば、オガーラのキックも悪く、FWが完敗しているのに、同じトライ数なのは、ひとえにアイルランドのキャプテン、オドリスコルの力だ。この人のプレイは本当に好きだ。
 けれども、スコアは惨敗。アルゼンチンFWのディフェンス力とエルナンデスのキックの前に惨敗。アルゼンチンは確かに強いが、好きになれないのはなぜだろう。ピチョットががたがた文句を言うからでもあるが、FWが頑張って、SOがドーンと蹴るだけじゃないか。もちろん大外で取ったトライは見事だったが、ディフェンスと力勝負が原則。新たな空間が創造され続けるフレアとは対極にあるからだ。スタッツを見ると、アルゼンチンのラインブレイクが1回だけ、そしてアイルランドが2回とある。ポゼッションしてエルナンデスのハイパント、そして、FWが攻め込んでPGかDG。戦術は決まっている。
 つまり、アルゼンチンに勝つには、まずFW戦で負けないこと、そして徹底的にエルナンデスをマークすること。でも次のスコットランドはアルゼンチンFWには勝てないだろう。セミファイナルで当たるスプリングボクスのFWが、アルゼンチンFWをめくれば、エルナンデスはいないも同然だ。

 これで準々決勝進出の8チームが決まった。アルゼンチンがフランスに勝ち、アイルランドに勝った。第1ラウンドはアルゼンチンの躍進と南半球勢の強さが目立った。誰でもが考えるように、本当はカーディフでのロスプーマス対オールブラックスが見たかったが、ベルナール・ラポルトも語るように「B組で一番強かったのはアルゼンチン」なのだ。
 フランスは、オールブラックスにどうやって対処すればいいのか。ラポルトは、この戦いではすべての面で上回らなければならない、と言う。つまり、これといった作戦はない、ということだ。フランスのメディアは水曜日に発表される予定の先発メンバーの予想を語る。問題は常にSO。ここまで固定メンバーで戦わず30人で戦うことを主軸に回してきたツケがまわったようだ。どう考えてもオールブラックスの優位は動かない。オールブラックス・サイドから考えるとベスト8でW杯を去るのは屈辱以外のなにものでもないだろう。だが、ここからはノックアウト・システムの戦いだ。どうやって戦うのか、と指向するよりも、敵よりも強く、早くボールを奪い、アタックする。気持ちだ。

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2007年09月30日

Back to the Future : フィジー対ウェールズ 38-34

 身体がその基底部で覚えている習慣、ほとんど自律神経のような運動、もともと存在していた要素の上に練習によって培われたオトマティスムではなく、もっと前から存在している何か──フィジーは、ここ一番の勝負で、そんな自らの基底部にごく自然に回帰し、ウェールズに勝利を収めた。
 かつて誰かがそれを「フィジアン・マジック」を呼んだこともあったし、第1回のW杯では、驚きを以てそれを見つめたものだが、第1回のW杯でベスト8に進み、それ以上の成績を指向するとき、彼らの基底部から目をそらし、ワールドスタンダードを導入したことで、封印されてしまった「フィジアン・マジック」。今回、それを思い出すことは監督の意図でも、ゲームメイクの方針でもなかったろう。選手がごく自然に選び取った何か、その魅力的なフィジーのプレイによって、ウェールズは沈んだ。
 もちろん、ウェールズはベスト8に進むに値するチームではない。セクシー・フットボールで前々回W杯を席巻し、オールブラックスをすんでのところまで追い込んだパスプレイから、スタンダードなラグビーに回帰することは、限りない後退であり、そうした後退を意図的に選択したチームは、ベスト8であってはならない。たとえこのゲームでスティーヴン・ジョーンズが、あろうことか、ゴールキックを3本ポストに当てた──ポストの間を通す方がよほど簡単だと思うが、ラグビーの神がいたなら、ウェールズよりもフィジーを選んだということであり、この選択は正しい──ことが直接の敗因であるにせよ、ジャパンを簡単に退けたからといってウェールズは、シックスネイションズにおいてはイタリア以下の力しかないだろう。
 無闇なコンタクトを避け、瞬時にスペースをさがしながら、多様なパスを繰り出す。ゲインラインという考え方よりも、ボールを保持し、スペースを見つけ出しながら、前進を図る。防御法の進歩したモダンラグビーでは、もちろん詰まってしまうことになり、そこでモールラックになる。そうしたブレイクダウンを強化することが現代的なチーム強化ということになり、フィジーもニュージーランドからコーチを招いたこともあった。だが、テストマッチの成績が示すように、そうした強化に失敗し──それなら、サモアとかトンガのやり方でいい──、方向を失いつつあったところだろう。この日のゲームでもウェールズは、フィジー・ゴール正面で得たペナルティにスクラムを選択したし、拮抗したゲームを展開したジャパンもモールからトライをひとつ取っている。
 だが、オフロードも織り交ぜながら、パスを繋ぐフィジーのゲームを見ていると、もう新しい戦術など生まれようがないくらいに画一化されたラグビーにも、そのスタイルにまだ大きな可能性があることがわかる。浅く広いラインばかりのライン攻撃よりも、狭く深いラインにも可能性が残されていること、ポジショニングとハンドリングによって、もっと面白いラグビーが可能であること。フィジーを見ていると、少なくともウェールズよりもずっと勝利にふさわしいチームであると思う。

投稿者 nobodymag : 14:13 | コメント (0)