『ファースト・カウ』&『ショーイング・アップ』特集
『ファースト・カウ』
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『ショーイング・アップ』
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関係の無常をどう描くか。ケリー・ライカートの映画ではともにいるものたちが、ともにいるために、それぞれ役割を引き受けなくてはならない。たとえば一緒に山奥に向かおうとすれば、そこまで車を運転する人と助手席に座る人という役割が生まれるように、必然的で、ごく日常的な行為における役割分担をライカートは意識的にカメラで捉え分けていく。やがて彼ら、彼女らの関係が破綻する雰囲気を帯びてくるのは、さまざまな場面で発生するそうした些細な役割分担と、その根拠となる微妙な権力勾配や利害の僅かな違いなどが、どうしようもない亀裂を浮かび上がらせてしまうからだ。しかし、その亀裂が関係をじっさいに破綻させるに至ることはない。自分とは生き方が違うと察してしまったあとでも、そのものたちは無関係に生きることができない。劇的な衝突を見せることなく、消えゆくが、消えきらない関係を描くことがライカートの冷静な厳しさなのである。今回はそうした厳しさを依然として引き継いでいる『ファースト・カウ』と、新たな一歩を踏み出しているように見える最新作『ショーイング・アップ』についての4つの論考をお届けする。